もうすぐイースター - 2002年03月22日(金) ミーティングルームのドアを閉めて、こっそりバージニアに電話する。 今日のおねえさんはハスキーな声が素敵な、やっぱり優しい人だった。 航空会社にすぐに問い合わせてくれて、その間待つ。 ケニー・G の曲が延々と流れてて、最初はなつかしいなあって聴いてたけど、だんだん気が狂いそうになってくる。40分くらい待たされた。 やっと聞いた答えは、出発時に空港のチケットカウンターで、50ドルの手数料と正規の航空券代を全額払う・・・。って、そこまで聞いてわたしはおねえさんの言葉を遮る。 「どうして? だって、チケットはちゃんと発券されててわたしはお金も払ってて、席だってもう確保してるのに、なんでまた全額払わなきゃいけないの? 正規の金額っていくらですか? それに全額払うのに、その上手数料って・・・」 「待って。落ち着いて落ち着いて。ちゃんと最後まで聞いてください。チケットカウンターで全額払うけど、それは全額戻ってくるんです。そのために手続きをして、その手数料の50ドル以外はちゃんと戻ってくるんです。」 それからおねえさんは、続けた。 「でもまだ日にちがあるんだから、チケット探してください。見つかるかもしれないでしょ? よくあることなんですって」。 そうだった。探さなきゃ。どっちにしても、最悪の予想ははずれてくれた。500ドルのチケット、パーになっちゃったらどうしようって思ってたから。 朝、「チケット失くしちゃった」って言ったら、びっくりしたドリーンが「家が火事になったって電話しなよ。そしたら再発券してくれるって」って言った。いきなりよくそんな発想出来るなあって感心した。そういう手があったんだ。「あたし、失くしたってもう言っちゃったよ」「バカだねー」。だけどよく考えたらさ、家が火事になっちゃったら、旅行なんかしてる場合じゃないじゃん。 ちょっと安心した。代理店のおねえさんは、今日の人もほんとに親切だった。 「ここが一番安くてサービスがいいんだよ」って、ドクターが休暇の行き先探してたサイトだった。もうそんなに落ち込まないで済んだのはドクターのおかげだよ。なんて思っていい? あの街から帰って来た頃にチケット見つかったりしたら、50ドル分笑い話にしちゃお。 日が長くなった。病院を出るとき、まだ明るい。 もうすぐイースターがやってくる。 それが終わったら、デイライトセービングタイムが始まる。 国じゅうの時計が1時間進む夜中の2時ごろ、わたしはあの街の空港に降りる。 ここと3時間時差があるから、わたしは自分の時計を2時間分戻すことになる。 あの人がわたしに彼女と結婚するって言ったのは、ちょうど去年のその頃だった。 あの人に、わたしからのイースターバニーのカードが届いた少しあと。 彼女のことなんか気にしないで、幸せでいられたあの頃。 「きみと電話してると、ほんとに時間がすぐに経つよ」ってあの人がいつも言って、恋人同士みたいに楽しかったのに。 電話を握ってた手の力が抜けて、それでもあの人の声を探りながら、わたしはベッドに突っ伏して泣いた。気が遠くなりそうだった。 「わかるよ、気が遠くなりそうって。泣いていいよ。気が済むまで泣けばいいよ。ずっとここにいてあげるから」。 「なんでそばにいてくれないの? そばにいて抱きしめてて。抱きしめてて」。そう言いながら、いつまでも声をあげて泣いてた。遅刻しそうなのに、あの人はずっと電話の向こうにいてくれた。 だけどイースターは嫌いにならない。 春の訪れをお祝いする、あたたかくて幸せな、大好きなお祭り。 嫌いになんかなりたくない。 そしてその次の日曜日、自分の時計を2時間戻したらわたしはあの街。 夏時間の始まりを、あの街で過ごせるなんて最高だね。 帰って来たら、あの人との時差が1時間縮まる。 イースター、イースター、 あの頃の幸せを連れ戻してなんて言わないから、 新しい春と一緒に、去年よりもう少しだけ優しい時間を連れてきて。 それから、まだ見つからない飛行機のチケットも。 -
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