おめでとうなんか言えない - 2002年04月02日(火) 書類が政府にファイルされるまでここを離れてはいけないって弁護士さんに言われた。 知らなかった。焦った。あと3日しかない。 病院にサインしてもらう書類は、昨日弁護士さんがオーバーナイトのFedExで送ったって言う。 病院が今日中にサインして弁護士さんに送り返してくれなきゃ、土曜日の出発までに間に合わない。 あの街に行けない。HRに急いで電話して、届いていることを確認したあと、今日中に絶対に送り返してもらうようにお願いする。でもまだ不安。 ほかにもわたしの知らなかったことがあって、慌てて大学院にまた別の書類にサインをもらいに行った。今日がイースターの週末の分の代休でよかった。 税金の申告もしなきゃいけない。 雇われ人でも自分でコレをする。日本みたいに、会社がやってくれない。 帰ってくる日が締め切りの日だから、行く前に出してしまわなきゃいけない。 忘れてたわけじゃないけど、放っていた。 いつもなんでもぎりぎりまで放っていて、土壇場になって焦ってる。 郵便局に申請用紙をもらいに行って、まだ放ってる。 それより、ボニーの結婚のお祝いを買わなくちゃいけなかった。 これもぎりぎりまで放ってた。 理由があった。 結婚の贈り物を見に行くのは辛かった。 いつまでも放っておくわけにいかないから、やっと今日探しに行った。 どんなお部屋で暮らすんだろう。どんなカーテンがかかってて、どんなベッドでふたりで目を覚まして、どんなカップでふたりでコーヒーを飲んで、どんなキッチンで一緒にお料理して、どんなテーブルでどんな食器で食べてどんなおしゃべりをして、どんなバスルームでどんな歯ブラシが並んでてどんなタオルを使ってどんなバスローブを着て、どんなどんなどんな・・・。 どこを歩いても、何を見ても、浮かんでくるのはボニーとケンじゃない。 「 Things Remembered 」で見つけたシルバーの写真立て。 好きな言葉を彫ってくれる。 気の利いた素敵な言葉を彫りたかったけど、単語が多いと値段が高くなるから、 ふたりの名前と結婚する日の日付だけを彫ってもらうことにして、その分豪華なフレームを選んだ。 名前と日付と「 Two Hearts, One Love 」って彫ってあるケーキカット用のナイフのサンプルが置いてあって、すごく素敵だったけど、ものすごく高くてあきらめた。それにナイフなんて、空港の荷物チェックで絶対ピーッて鳴る。シルバーの写真立ても多分ピーッだと思うけど、写真立てだって分かったら問題ない。 ダイヤのリングとマリッジバンドを絡めたデザインが、弓状になった上部に浮き彫りに施されたシンプルなピクチャーフレーム。ダイヤに見立てた部分にはクリスタルが填められてる。フレームに収まる幸せなボニーとケンの笑顔が見える。次の瞬間、ケンの顔があの人の顔に変わる。彼女の顔なんか知らない。あの人の幸せそうな笑顔だけで、もうじゅうぶん辛くなった。 結婚するときにはちゃんとおめでとうって言ってあげよう。贈り物をしてあげよう。 そんなこと決めてたいつかの自分がバカだと思った。 出来るはずない。絶対、出来ない。絶対に絶対に出来ない。 泣きそうなこころを抱えて、ずるずるずるずるからだを引っ張って、 カードを探しに行く。 自分はどんな顔してるんだろう。 こんな顔をして、ウェディングのカードを選ぶ人がいるだろうか。 少なくともわたしは今まで、ウェディングのカードを選ぶときはどんな人のためでも心が躍った。これはボニーへのカードなのに。それなのに。 And the two shall become one. Mark 10:8 ってその下にちっちゃく記されてるから、聖書の引用だって分かった。 フレームに見せかけたデザインが、写真立てのプレゼントにぴったり合う。 カードの方は、シルバーじゃなくて、薄い色のゴールドだった。そこも気に入った。 中を開くと、Itユs that simple. Itユs that beautiful. って言葉が続く。 飾り立てたお祝いの言葉より、なんて素敵と思った。 ふたつがひとつになる。そう、結婚はそれほどシンプルで、美しいこと。 ボニーはもうすぐそれを知る。やっとボニーのために、微笑んだ。 あの人はまだ知らないでいて。 でもいつかもうすぐ、あの人も知る日がやってくる。 そんな幸せそうな顔、見せないで。 おめでとうなんか言えない。贈り物も探せない。 -
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