カシコクなれ - 2002年04月16日(火) 目が覚めたら10時13分だった。 「え?」って口を開けたまま30秒くらいフリーズしたけど、ごくんと生唾呑んで素早く解凍して、 言い訳も考えずにチーフに電話した。 「今起きました」なんて言えるはずがない。 途中まで行ったけど胃がキョーレツに痛くなって 引き返して来たことにした。 少し休んだら大丈夫になったから、これから行きます。 12時くらいには着きます。 「正直モノはバカを見る」を懲りずに繰り返してるくせに、 こんなカシコイ不正直モノにもなれるんだって、なんか嬉しくなった。 旅行中に胃をやられて入院したこと話しててよかった。 髪が濡れてるとマズイかなあって思いながら、急いでシャワーを済ませて化粧してアパートを出たら、ものすごく気温が高かった。おかげで、窓全開で運転してる間に髪は殆ど乾いた。 渋滞があんまり酷くて45分遅刻したことがあってから、ルートを変えて遠回りな高速使ってるけど、 この時間帯なら大丈夫と踏んで近い方の高速に乗ったら、 あちこちで工事しててやっぱり凄い渋滞で、12時に間に合わなかった。 45分の遅刻が渋滞のせいだってこと信じてくれずにビービー叱ったくせに、 今日のチーフは妙に優しかった。 あのときビービー叱られながらガーガー言い返したのがわたしの勝利だったのか、 嘘を完全に信じて心配してくれたのか、 どうせ来やしないって思ってたのに来てくれたから、穴が空くフロアのカバレージの心配しなくて済んで安心したのか、 理由がどうであれ、なんか嬉しかった。 ズルガシコイことだって出来ちゃう自分が嬉しかった。 遅刻のせいで時間が短くなって大変だったのに、 患者さんが心臓発作起こしてもっと大変になった。 Dr. ゴパールの処置は完ぺきだった。 わたしなんかオロオロしちゃって全く手が止まってたのに。 インターンとはとても思えない落ち着きと対応で、 いつもジェニーと「かっこいいよね」「素敵だよね」って言ってたけど、 本気で好きになりそうなくらい今日は尊敬した。感動した。 そのあと、いつもみたいに「今日、外暑い?」とか突然とっぴょうしもないこと聞いてきたりする。 「暑いよ。春が飛んじゃったみたいだよ」って、いつもみたいじゃなくどきどきしながら答えながら、デートしてるとこ空想してた。 でもわたしの年齢知ったらデートなんかに誘ってくれないだろうな、だけどもし年齢聞かれたら今度はちゃんと答えよう、なんて考えて、忘れかけてた痛みにまたちょっと胸が疼いた。疼いた胸がバカな空想をかき消した。 探し物は探すと見つからない。 期待したいことは期待すると訪れない。 手を伸ばしたいものには手を伸ばすと届かない。 会いたい人には待ってると会えなくなる。 そういうモンだからね、人生は。 ちょっとはカシコクなったじゃん。 インサービスの講義もあった。 国家試験にパスして以来、ずっと勉強なんかしてなかった。 大好きな経管栄養治療の講義で、胸がワクワクした。 久しぶりの刺激だった。 もっと勉強したい、もっと専門的になりたいって思った。 3000ドルの病院代の話をしたら、 イージーゴーイングなドリーンは、「ここの保険が効くって。交渉しなよ。なんでそんな金額アンタが払わなきゃいけないのよ。保険効くに決まってんじゃん」って言う。そうか、って思った。 お調子もののケースマネージャーのミスター・ラザーがおんなじこと言ったときは、あんまり納得出来なかったけど。 アニーのオフィスの名前を知らない男のスタッフは、「払う必要ないよ。ほっときな。ここじゃあそれが常識だよ」って言った。 それを聞いてたアニーは、「やめなよ。この子はそういう子じゃないんだよ」って言った。 踏み倒しかあ。 やっぱり出来ないよ、わたしには。 それにさ、「必ず払います」って書類にサインしたんだよ。 一緒にいてくれたリサも証人のサインさせられたんだよ。 空港にピックアップに来てくれたジェイおじさんも、「そんなもの払うのはバカだよ。誰も払ったりしないよ。ここはそういうとこだよ」って言ってた。 あのね、ここの街の人のそういうところはやっぱり嫌いなの。 それってカシコイんでもズルガシコイんでもなくて、ただズルイだけじゃん。 明日はもっと暑くなるらしい。 90 °F って、真夏の気温だ。 またあの季節が来る。 あの人と出会ったあの季節。 だめ。カシコクなれ。もっとカシコクなれ。 -
|
|