再会 - 2002年06月03日(月) セックスがしたかっただけなんだろうな。 ゆうべ、あれからドクターからコールバックがあった。 お昼の話の続きをしてから、今夜なんか予定あるの? って聞かれた。ないよって答える。 「じゃあ来る?」 「今から? いいけど。どこに?」 「うち。」 「おんなじとこに居るの?」 「おんなじとこだよ。」 聞き取りにくくて、「どっからかけてるの?」って聞いたら、「今うちに帰ってる途中」って言った。電話番号が不通になってた理由がわかった。うちの電話はずして携帯にしたんだ。 「部屋の番号覚えてる?」 覚えてたけど、忘れたふりをした。明日の朝早いから遅くまで起きてられないけど、ってドクターが言う。今仕事が出来なくて強制休暇なんだって話をしてたから、わたしは明日も仕事がないことドクターは知ってる。 シャワーを浴びて、濡れた髪のまま車に乗った。日曜日の夜も高速は渋滞で、1時間半かかった。そのあいだに髪は乾いた。いつも車を停めてた辺りにちょうどひとつ空いてるところを見つけて停めて、口紅をつけようとしたら口紅がなかった。顔色が冴えなく見えたけど、こんな気取らない顔で再会するのもいいかってなんとなくそう思った。グロスがあったからそれだけ塗ったら、ヌードの口紅つけてるみたいで悪くなかった。もう10時だった。 ドクター用のアパートの玄関はロックされていて、焦った。セキュリティーに ID 預けるのはイヤだった。携帯の番号知らないし、ペイジャーの番号覚えてないし、公衆電話の前をどうしようかってウロウロしてから戻ったら、誰かがドアの内側にいて中から開けてくれた。「ありがと」ってニコッと笑って、住人のふりして入って行ったけど、心臓が破裂しそうだった。ものすごく悪いことしてるみたいな気分だった。 ドクターは何気ない笑顔で迎えてくれて、わたしは思いっきり可愛い笑顔を見せようと思ってたのにまだ胸がドキドキしてて笑えなかった。「下のドア、ロックされてたの。誰かが開けてくれて入れたけど、恐かった。まだドキドキしてるよ」って胸を押さえて言った。違う意味でドキドキしてると思われたらやだなって思った。 「久しぶりだね」って、友だちみたいに軽くハグし合って、あれからどうしてたの? フランチェスカはどうしてる? そんな質問に、相変わらず B5 をメインでカバーしてることやフランチェスカがかわいくて最近好きなことを答えて、普通に話をした。 ほんとに何事もなかったみたいに、何も特別なこと話さずに、半年ぶりに出会う友だち同士みたいなおしゃべりをしてた。テレビで NBA をやっていて、ちょうど LA LAKERS が勝って終わったとこだった。Kobe Bryant が病院の駐車場のおにいさんに似てるなって思ってた。おにいさんを1.5倍カッコよくしたみたいだな、唇の左端上げて喋るとこが似てるな、とか。 ドクターがわたしの肩を抱いてキスした。吸い込まれるみたいに返して、何度も何度も短いキスを繰り返した。特別な感情が何もなかった。ただ、前と同じに優しいキスと、優しいくちびるがなつかしかった。大好きだったドクターのキス。前みたいに首に抱きついて、ドクターの喉にくちびるを押しつけて、ちょっと興奮してる素振りを見せた。 そのまま抱かれた。ときめきも情熱も罪悪感も殆どなかった。友だち同士でセックスするとこんな感じなのかなって思った。セックスフレンドってこういうのなのかなとも思った。慣れた体がなんとなく安心で、安心して感じ合ってるみたいな、そんなふうだった。そしてそれが素敵だった。それが素敵で、どんどんのめり込んで行った。ドクターはたくさん感じさせてくれて、わたしもいっぱいしてあげた。ドクターの表情を見ながら、もっと感じさせてあげる、もっと気持ちよくしてあげる、って思ってた。BGM はまだ騒ぎ立ててる LAKERS の試合後のインタビューだった。ドクターは途中でボリュームを大きくした。そんなことに笑ったりしながら、何回も抱き合った。 「泊まってく?」ってドクターは聞いた。夜中なら高速はすいてるけど、明日の朝はまた渋滞だしなあって思った。「帰った方がよくない? 邪魔じゃない?」「邪魔じゃないよ、ひとりで起きてるわけじゃないだろ? 起きてるの?」「ううん、寝るよ」「じゃあ一緒に寝ようよ」「じゃそうする」。ドクターは腕枕をしてくれて、LA で買う車のことを話した。「MR2 好き?」ってドクターが聞く。「コンヴァーティブルってどうかな。きみ乗ったことある?」「あるよ。気持ちいいけど、あれさ、時々暑いんだよね、頭が」「持ってたの?」「ううん、友だち」「男? 女の子?」「女の子」「何乗ってたの?」「ラビット・・・だっけ?」「フォルクスワーゲンか」「うん」。LA で MR2 のコンヴァーティブル。らしいなって思う。「あなたなら似合うよね」「でも実用的じゃないよな」「まあね。だけどトヨタだし」『日本車は信頼出来る』。同時に言う。「日本人もね」って言っちゃってから、ちょっと後悔した。わたしは「嘘つき」だったんだ。でももうどうでもいいんだろうなとも思った。 ドクターは自分の胸の上でわたしの右手を握ってた。握ってた手を導いていった。それから頭も押しやって促した。睡眠薬代わりかなって思ったけど、平気だった。何度も達しそうになりながら、その度にドクターはわたしの頭を少し離した。「Do you wanna come?」って聞いたら「I wanna come」って言った。「どうやって?」「このままきみの口の中で」。 果てたドクターは眠りかけた。わたしは眠れなくなって、ドクターの名前を呼んだ。前みたいにじゃなくて、みんなが呼んでる呼び方で。「なに?」「あたしももう一回行きたい」「どうやって?」「あなたは疲れてるでしょ? 自分でする。いい?」。平気でそんなことが言えた。ドクターは笑って「いいよ。きみ、おもしろいね」って言った。わたしはドクターの右腕に左腕でしがみついた。自分で驚いたけど、全然平気だった。吐息を漏らしたら、ドクターが「僕がしてあげるよ」って体を起こした。「いいよ、疲れてるから」「疲れてるけど、いいよ」。すぐにイッちゃった。「早いなあ」ってドクターが笑う。「うん、だってあなた疲れてるから、頑張ったの」「スピード違反だよ」。ドクターはわたしを抱き寄せて、「これで眠れる?」って聞いた。笑いながら「うん」って答えて、そのまま眠りに落ちて行った。 -
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