天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

きみを愛せない - 2002年08月10日(土)

家の玄関を開けたら、カダーが笑って立っていた。
引っ越しする前に毎日来てくれてたあのカダーの笑顔だった。しっぽを振ってまとわりつくデイジーからやっと解放されて、アパートにふたりで入る。カダーはドアを閉めて、わたしはちょっとだけためらったあと、カダーの胸に寄りかかった。カダーは今までみたいにわたしを優しく抱き締めてからキスしてくれた。それから「部屋を見せてよ。どんなになった?」って言った。本棚のスクロールカーテンとランプのことなんか、忘れてた。「へえ。よくなったじゃん」ってカダーは嬉しそうだった。

抱き合った。ほんとに、あの喧嘩をする前とまるで何も変わってないみたいだった。みたいだったけど、少し違う気もした。わたしはカダーの気持ちを探ってた。違うことを認めるのが怖くて、探りながらなんにも気づいてないふりしてた。

なんとなく前と違うふうにふざけるカダーが少し悲しくて、「あなたってときどき子どもみたい」って誤魔化すみたいに笑ったら、カダーも笑って「僕の国にこんな歌があるんだよ」って歌詞を教えてくれた。「あなたはときどき子どものように振る舞う。My love。愛しい人。だからあなたは素敵。なぜなら子どもは誰でもみんな素晴らしいから」。それからそれを、カダーは自分の国の言葉で言った。

「ハビビがなかったよ。飛ばしたでしょ」って言ったら、「ほんとだ、飛ばした」ってカダーは大笑いした。ずっと前に、「I love you って、あなたの国の言葉で何て言うの?」って聞いたら、「そういうふうには言わないんだよ。ハビビって言葉を使うけど、直訳すると My love って意味なんだ」って教えてくれて、わたしはそれから「ハビビ」が大好きになった。

ブース・ティーズィ、ハビビ。ブース・クースィ、ハビビ。ヤラヤラ、ヤラビーナ、ハビビ、ハビビ。

わたしはふざけて、カダーの国の卑猥な言葉にハビビをいっぱいくっつけて言った。カダーはゲラゲラ笑った。それから、急に真面目に言った。

僕はきみを愛せない。

「・・・。どうして?」「わからない。でも、なぜだかきみに対してそういう感情がないってわかった。だから僕は混乱してる。きみはいい子だよ。とても素敵でとても可愛い。好きだよ。大好きだよ。だけど、愛ってのはこういうのじゃない。愛っていうのは、何もかも受け入れられることなんだ。僕はきみを愛せない。きみとはセックスだけの関係でしかない」。

「初めからそうだったの?」。初めはわたしを愛するようになると思ったって言った。わたしがあることに異常に過敏で、すぐに泣き出すことをカダーは受け入れられなくて、そういうわたしをカダーは病気だって言った。

「あたしは病気なんかじゃない。あたし、初めはあなたにどんな感情を持ってたか覚えてない。だけどあなたが毎日尋ねてくれるのが嬉しくなって、来てくれないと淋しくなって、あなたとおしゃべりするのが好きになって、あなたとごはんを食べるのが楽しみになって、あなたが抱き締めてくれるのが好きになって、あなたのキスが好きになって、あなたと過ごす時間が大好きになった。だから引っ越しても遊びに来てくれるって言ってくれたとき、嬉しかった。ビーチにも連れてってくれるって言ってくれたとき、ものすごく嬉しかった。あたし、またひとりになるのがイヤだ。淋しいのはイヤだ。あたし、病気なの? それは病気なの? 病気なんかじゃないよ。あたし、ただあなたと一緒にいたい」。

でも病気なのかもしれない。極端に淋しがりやなのは、病気なのかもしれない。そして頭がおかしくて、それをカダーは受け入れられないんだ。

「ごめん。病気だなんて言ってごめん。僕は混乱してる。だけどきみを愛せない。愛せるならもうとっくに愛してる。僕はきみを愛してない。きみにはきみを愛してくれる誰かが見つかるよ。きみはこんなに素敵な子なんだから。きみには、どれだけ愛してるかよりどれだけ愛されてるかの方がずっと必要なんだよ、分かる? 僕は自分が愛せる子を見つける。きみはきみを愛してくれる人を見つけなきゃだめだ。僕たちはずっと友だちでいられるから」。

友だち。まただ。セックスする友だち。なんで誰もわたしを愛してくれないんだろう。オカシイからだ。セックスがいいだけの、すぐ取り乱す頭のオカシイ女だからだ。セックスするだけの関係って言われて、そんなのはイヤだと思わないようなオカシイ女で、それを利用されてるとも思えないバカな女。

「じゃあまた来てくれるの?」「来るよ」「ほんと? ビーチにも連れてってくれる?」「連れてくよ。でも友だちとしてだよ」「言わないで、それ。分かったから。もう分かったから。あなたのこと、あたしも愛さないから、もう言わないで」「笑って。僕はきみの笑顔が好きだから。いつもそう言うだろ?」。カダーは初めから、わたしの笑顔が好きだっていつも言った。


抱き合ってはそんな話をしてまた抱き合って、眠って朝になって一緒にシャワーを浴びた。カダーとシャワーを浴びるのは、ものすごく楽しかった。それからカダーの壊れかけの車を一緒に修理して、ごはんを食べに行った。フランクが教えてくれたそのレストランは、ものすごく不味かった。

わたしはもう泣かない。淋しくないふりをする。セックスがいいならセックスのとりこにしてあげる。愛してもらえなくてもしかたない。でももうかまわない。いっぱい愛してる素振りを見せながら、わたしも愛さないよって言い続けてみせる。それさえもうすぐおしまいなのかもしれないけど。

アパートまで戻って来て、カダーは助手席のわたしを抱き寄せてあの優しいキスをくれた。わたしは首に抱きついて、カダーの耳の横にお返しのキスをした。車を降りて運転席のドアに回って、窓から腕と頭を伸ばし入れて、もう一度カダーの首に抱きついた。今度はくちびるの端っこにキスした。

そして離れて、思いっきり笑顔を見せて「バイ」って手を振った。

もしかしたらあれが最後だったのかもしれないって、今思い始めてる。


-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail