公園 - 2002年08月13日(火) 大家さんの奥さんのシャーミンがデイジーを連れて公園に行くって言うから、一緒にくっついて行った。 すぐそばの大きな公園は、仕事から帰って来てからひとりでふらりと初めて行ってみたけど、そんなにおっきくないんだなって思った。そしたら違った。大きい。わたしは4分の1ほどしか見てなかった。 ハドソン河沿いに、デイジーを引っ張って歩く。 もう真夜中になるのに、人も車もいっぱいだった。道路の脇に車を停めてガンガン鳴らす音楽を BGM に、歩道のフェンスに乗っかって抱き合うカップル。二人のうしろで、河の向こう岸にシティの灯りのオレンジが無数に重なって浮かび上がって、なんか「外国みたい」って思った。目の前には、わたしの大好きな橋が白い光を等間隔に放って、河の水に反射してる。水はまっすぐに進まずに大きな渦巻きを作りながら流れて、渦巻きは知恵の輪みたいに順番に絡んで、ゆるゆると光に踊りながら回ってる。シャーミンが、この渦巻きが怖いんだって言った。人を呑み込んじゃうからって。 なんていうんだっけ? ああいう渦巻きの波。わたしは言葉を思い出そうとしてシャーミンに聞く。カレント? カール? タイド? 違う違う。ホラ、なんかあったじゃん、特別な言葉が。って言ってしばらくしてから思い出した。「なると」。あんまりバカで頭ん中から急いで取り消そうとしたら、「渦潮」ってのが「洗濯機」と一緒に出てきて、慌ててコレも消す。 デイジーに向かって、ティーンっぽい男の子たちが「グッボーイ!」って声かける。「ガールだよ、ガールガール」ってムッとしてデイジーを抱き寄せたら、シャーミンが大笑いした。 水と橋と緑と街の灯り。 あの街を思い出す。もう戻りたいと思わなくなったけど、思い出せばいつも胸がいっぱいになる街。シャーミンにあの街のことと別れた夫のことをたくさん話してて、気がついた。すごく誇らしげに話してた。あの街のこともだけど、いつも自慢だった夫のこと。昨日電話して新しい電話番号を言って、「とてもいいとこだよ。もしもそんな気分になったら遊びに来てください」ってメールを出して、なんとなく後悔してたけど。 ぐるっと公園を回って、人気のないところでデイジーを放したら、大喜びして走り回る。木と闇にデイジーの姿が隠れてしまうたびにシャーミンが心配して大声で呼んで、呼んだらデイジーが飛んでくる。そのうち飛んでこなくなって見に行ったら、うんこしてた。暗闇の中でうんこを探して、「あ、多分これだ」って手を伸ばしたら、シャーミンが「触っちゃだめ」って言った。触らないって。あったかいかどうか、手を近づけて確かめただけ。あったかかったから、デイジーがしたばかりのうんこと判明。でっかいうんこだった。シャーミンがティッシュで掴んでゴミ箱に捨てに行く。わたし知ってる。シャーミンったら拾わずに放って置こうとしてた。ダメだよ。 「彼はボーイフレンドになったの?」ってシャーミンが聞いた。 カダーが最初に引っ越しを手伝ってくれて荷物を新しいアパートに運んだとき、「おんなじアパートのビルに住んでる人なんだ。引っ越し手伝ってくれるの」って言ってたから。そのときはほんとにそうだった。それから泊まりに来てるのも一緒に出掛けてるのもシャーミンは知ってる。 「わかんない。彼は真剣じゃないの。だからただの友だちかな」って答えた。そして、 「彼が真剣じゃないんだから、あたしも真剣になんないようにしてる」ってうそぶいた。 「自分を傷つけたくないものね」ってシャーミンは言った。 もうじゅうぶん傷つけたよ。 公園を歩きながら、一緒に歩きたいなってずっと思ってた。 カダーは歩いてくれないかもしれないし、もう待たないし期待もしない。 一緒に歩きたい人はあの人。 いいなあ、こんなとこに住んでていいなあ、って、あの人は絶対言う。 でも、だめ。だめだけど、あの人のこと考えないでなんかいられない。 昨日また電話したけど、ほんの少し声聞いただけだった。「明日の朝またかけて。そのとき電話番号教えてよ」ってあの人は言った。わたしはかけなかった。 -
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