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Take it easy - 2004年11月08日(月) ジョージ・ワシントン・ブリッジを渡ってハイウェイをくるりと回りながら降りたあたりから、わたしは息が止まりそうになる。そのたびに空気を吸い込むから、ひゅーっという音が何度も口からこぼれる。「Take it easy」「Take it easy」。運転席のデイビッドが横からわたしの興奮を抑えようとする。 「ねえ見て」「見てるよ」「ほら見て」「だから見てるって」「ねえすごいよ」「ここは僕の一番のお気に入りの道なんだ」「ほらすごいよ」「ニューヨークとは思えないだろ?」「すごいよ」「期待してなかった?」「すごい」。会話とは言えないような会話を繰り返してた。 見事な、見事な紅葉だった。あの街みたいだった。あの街の少し端正でお行儀のいい背の高い木々たちに比べたら、そこはもっとワイルドでパワフルだったかもしれない。 ハドソン・リバー沿いに車を止めて、そこから河に沿って歩く。ナターシャはすっかり足が弱って、細くなった足を絡ませながら何度も転びそうになる。それでも枯れ葉の上を歩くのは道路を歩くよりは簡単みたいだった。 鮮やかに色を重ねるメープルやオークや名まえの知らない木たちの葉っぱを見上げながら、幾重にも色とりどりの枯れ葉が覆う細いトレイルを歩き続ける。暗くなるまえに戻れるようにUターンして、4時間は歩いた。薄暗くなり始めた水辺は風が冷たくて、気持ちよかった。一組のティーンズのカップルに会った以外、誰にも会わなかった。 「僕は秘密の場所をたくさん知ってるだろ?」って自慢げにデイビッドは言った。ほかの誰かをたくさん連れて来たことがあるに違いないけど、もうそんなことなんとも思わなくなった。停めた車が近くなった岩陰で突然ぎゅうっと抱き締めて「一緒にハイクに来てくれてありがと」ってデイビッドは言った。そんな、ほんのときどきしか見せてくれない愛情にも不満を感じなくなって、それがとても好きになった。 この街に来る前に恋いこがれてたオータム・イン・ニューヨークはまだ叶わないままだけど、黄金の葉っぱの雨にさらさら降られながらセントラル・パークの葉っぱの雨よりきっと素敵だと思った。 あれから一週間。日に日に寒さが増して、葉っぱはもう色褪せてきてる。 新しい病院に行き始めてからも、一週間が過ぎた。 ナースもドクターたちもとてもフレンドリーでケアリングで、多分わたしはこの病院が好きだ。とても好きになりそうな気がする。 明日は気温が43°Fしかない。 地下鉄の駅から歩くアベニューの4ブロックはとても長くて寒いけど、それも多分好きになる。 「Take it easy」。 ひとりでこの街にやって来たとき、何かが大変なたんびに人に言われて嫌いになった言葉。今、それも好きになった。 Take it easy. いいことがあっても、悪いことがあっても。 -
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