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まだ生きたいよ - 2004年11月16日(火) ナターシャに会いに行った。 デイビッドにもだけど。 ナターシャの靴と、足ケガしてずっとうちにいたときにジャックが持って来てくれたサプルメントを3缶と、アイザック・バシュヴィス・シンガーの分厚い本を入れたらバッグが重くてしかたなかった。こういうとき、車で通った前の病院がなつかしくなる。病院変わってから、やっぱ地下鉄通勤のがカッコイイなとか思ってたけど。 今週はずっとホスピタル・オリエンテーションで、アイザック・バシュヴィス・シンガーはたいくつしのぎに持ってったのに、今日のオリエンテーションは早く終わって3時過ぎには帰れた。 また重たいバッグ + 昨日持ってってオフィスに置いといたベリーダンス用の服のバッグとそのあとタンゴに行くかもしれないからダンス・シューズの袋を肩にかけて、アベニューの長い4ブロックを歩いて歩いて地下鉄を乗り継ぐ。 ナターシャは暖炉の前のベッドに横たわってた。 背中もおなかも足もすっかり痩せて力なく横になってる姿を見るとちょっとドキッとしてしまった。 ナターシャに話しかけながら靴を4本の足に履かせてやる。赤い靴がとても似合った。前足と後ろ足の両方にかけた赤いハーネスにもとても合ってた。今日もナターシャは歩けないってデイビッドが電話で言ってた。 「ほら可愛い。見て、すごく似合うじゃん」。わたしは少しはしゃいで言って、まだ仕事してるデイビッドに見せる。ナターシャは立とうして、後ろ足を腰から支えてやるとしっかり立ち上がった。だけど2、3歩歩いて自分で向きを変えようとしたら、へにゃっと座り込んでしまった。それでもデイビッドは喜んでくれた。「魔法の靴」とは言わなかったけど、靴の底の素材を確かめながら、ハードウッドの床はつるつるすべるからうちの中でもこの靴は助けになるんだよって。 「大丈夫だよ、ナターシャ。また歩けるようになるから」。何度もそう言ってサプルメントの缶を3分の1ボウルにあけてやると、少し頭を起こしてぺろぺろきれいに飲んでくれた。 デイビッドがジムのトレーナーのアポイントに出掛けたあと、わたしはずっとナターシャの歩けなくなった後ろ足をさすってやってた。痩せ細った足はなんの反応も見せずに、ただだらんと2本重なってた。 デイビッドが帰って来てから、一緒におしっこに連れ出してみる。デイビッドがやりかたを教えてくれて、わたしは後ろ足に掛けたハーネスを右手で持ち上げながら、前足のハーネスにつけたリーシュを左手で引っ張る。まるで操り人形みたいに。赤い靴を履いた4本の足はわたしの手に操られながら、自分でちゃんと歩いてるみたいに交互に地面に落ちては進んでった。ナターシャは上手にたくさんおしっこをして、戻るときにはもうわたしの腕は力尽きそうだった。デイビッドが慌ててハーネスとリーシュをわたしの手から取ってくれた。足がいつもみたいに両側に滑って広がらないのは靴のおかげだってデイビッドは言ってくれた。 ほんとに、どうして突然こんなふうになっちゃったんだろう。木曜日にはあんなにたくさん一緒に歩いたのに。わたしがあんなに歩かせたのがいけなかった? デイビッドは、そうじゃない、こうなる時が来ただけだよ、って言ってくれるけど。 「ベリーダンスのクラスに行っておいで」。デイビッドに促されてコートを着る。「ナターシャは大丈夫だよ。きっとまた歩けるようになるって」。そう言ったわたしの顔をちょっと驚いたような顔で見てたのは、わたしが泣きそうになったからかもしれない。 2、3日前から風邪を引いてわたしは時々ひどく咳き込む。デイビッドの前では咳き込まないように、キャンディーを口に入れたりお水を飲んだり深呼吸したりして咳を止めてた。咳き込んだりしたらキスはお預けだから。 デイビッドはバイのハグとほっぺにキスをくれたあと、くちびるにもキスをくれた。 ごめん、デイビッド。風邪うつっちゃうかもしれないよ。 「まだ生きたいよ」。ナターシャはそう言ってるような気がした。 -
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