red mann - 2001年05月15日(火) 昔、トリニダードのパンヤードで練習していたときの事。トリニダードについてまだ数日しか過ごしてなくて、あまりその年のレパートリーを憶えてなかった僕は、ほとんどの曲で所在なげに、見学していました。 ある曲が始まったときに、「ナベオトコォ、この曲知ってるだろ。叩く?」と彼の使っていたパンを貸してくれました。早めのカリプソの曲です。憶えたてで、必死だった僕は、夢中で音を追いかけはじめました。パンを貸してくれた彼は、リズムセクションに入ります。 鉄のスティックを持って、アイアンを叩きはじめました。パンの軽いスティックとアイアンの重いスティックは、全然叩き方が違ってきます。彼は刻むのがやっとって感じで、結構辛そうに叩いています。でも、決して、もたったりしません。見ると手首はほとんど動かさず、腕で叩いています。手首が痛くて動かせないのかも知れません。でもこの叩き方だと、疲労は倍にも3倍にもなります。 10数分続くこの曲は、なれないアイアン叩きには辛いものがあったと思います。それでも彼は、ぐっと突っ込んだいいビートをキープしています。彼の顔は「もう早く終わってくれ」いわんばかりに辛そうです。でもやめるとか、リズムを簡単にするなんて事は、まるっきり考えません。きれいなビートを出すことに集中しているのが、よくわかります。 それを見ていた、ドラマーは苦笑をこらえながら、顔で「がんばれ」とエールを送ってます。エンディングのキメにはいった時、二人は顔を見合わせて、体が大きく揺れました。 最後の一発がびしっと決まった時。二人は一緒に飛び上がって、抱き合い、叫んで、走り回ってます。もう、ハットトリックを決めたサッカー選手の様です。なんとなく気になって一部始終を見ていた僕は、なんだかおかしくて、ほほえましくて。 リズムセクションに背を向けて演奏していたテナー、セコンドパートのプレイヤー達は、わけがわからず、きょとんとしてるし、二人はテンション下がんないし、リーダーのおいちゃんは、若いもんの様子を見てニヤニヤ嬉しそうだし。あんまり言葉をしゃべれなかった時に経験した、心の通じる一幕でした。 -
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