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2001年05月20日(日) 父がガンで死んだ時(8)転院 

1月26日
ガン告知から一週間が過ぎ、父は免疫療法の治療を
受ける為、板橋区の病院へ転院する事になりました。

しかし、父は病院を移る事に乗り気では
ありませんでした。

それというのも担当医や看護婦の皆さんが
とても親切だったからです。
病院自体も非常に綺麗でベットやトイレも
全自動と入院している父にとってはとても
過ごしやすかったみたいでした。
そして何より家が近いという事が父にとっては
安心だったのかもしれません。

しかし転院の手続きはもう済んでいます。
今更、キャンセルする訳にもいきませんでした。

ただ、転院と言っても実は2週間程度の短いもので
またすぐに今の病院に戻って来る予定だったのです。

免疫療法という治療法は治療を受ける患者専用の
免疫を作って患者に注射すれば後は月1回程度の
割合で、この注射を打てばいいとの事でした。

その為、一度注射を打てば後は月1回通院という
形でも良いとの事でした。
しかしその治療を行う為の準備期間として、
どうしても2週間程度の入院が必要だったのです。

父には2週間経ったら、また今の病院に帰って来れる事を
説明し、その言葉に父も渋々承知しました。


父の転院が無事に済んだその夜、
私は早速新しい入院先に行きました。

今まで私は朝晩父のお見舞いに行っていましたが、
新しい病院は電車で1時間程度かかる為、転院して
からは夜しか見舞いに行けなくなってしまいました。

当時私は、昼間仕事をして夜は調理師の専門学校の
夜間部に通っていました。
その為、仕事が終わったその足で父の見舞いに行き、
その後に学校に行くという慌ただしい生活を送って
いました。

私が病室に入ると父は丁度、気功を受けていました。
相変わらず父は気功が効くらしく、まだ何のガン治療
も受けていない父にとっては、間違いなくそれが心の
より所になっていました。

しかしその後、気功師のある発言によって父の
気功治療を断念せざるえない出来事が起こりました。

父の治療を終えて病室から出てきた気功師が事もあろうに
母に治療費の値上げを要求して来たのです。

気功師の言い分は、この病院に来るには今までより
1時間以上かかるので治療費を明日から6万円に上げ
て欲しいと言うものでした。

私と母はあまりに身勝手な気功師の発言に怒りを
通り越し呆れてしまいました。
現在の一回の治療代4万円という金額ですら払うのが
やっとという状況なのに通う距離が遠くなったから
6万円払えなどという気功師の条件は到底私や母には
のめるものではありませんでした。

何故、人助けを生業としているはずの気功師が
このような発言をするのか私にはまったく解りません。

それが、国民性の違いから来るものなのか?
外国人だからビジネスと割り切っているのか?
それともこの気功師がもともとそういう性格
だったのか?
・・・いずれにしろ、私にはまったく理解が
出来ませんでした。

結局、そんな大金を毎日払える筈もなく、父への
気功治療はこの日が最後となってしまいました。
父の心の支えであった気功をやめてしまうのは
私も母も非常に心苦しかったのですが人の足元を
見て商売をする気功師のあの態度を私と母は許せ
ませんでした。

母は翌日父へ、気功師の先生は緊急の用事で中国に
帰らなければいけなくなりもう父の治療は出来なく
なってしまったのだと嘘をついていました。

しかしながら、この出来事があった数日後、
待ちに待った漢方薬が自宅に届きました。
私はすぐにでも飲んで欲しいという思いから、
その日のうちに父へ届けることにしました。

私が病室へ入ると父はイラついていました。
漢方薬を渡すと、一応ありがとうとお礼を
言ってはくれたものの、それを飲もうとは
しませんでした。

母が「せっかく買ったんだから飲んでみれば?」
と漢方薬の蓋を開けようとすると父は怒りを
あらわにし、「今日はいらない!」と母を怒鳴りつけ
その漢方薬を引出しの奥へと閉まってしまいました。

父は転院しても一向にガンの治療が行われない事・・・。
気功師が来なくなった事・・・。
体調が日に日に悪くなってきている事・・・。
自分の命がいつ終わるのかわからない不安感・・・。
恐らく父はあらゆる事で悩み、苦しみ、絶望し・・・
とても辛い思いをしていたのだと思います。
それらの思いが怒りとなって表れたのだと思います。

しかし翌日、父は私や母が見ている目の前で
漢方薬を飲んでくれました。
漢方薬は液状で非常に飲みやすい形状をしており
父も比較的楽に飲んでいました。
しかし、せっかく飲んだ漢方薬も飲んだ直後に
ほとんど、胃の内容物を出す為につけている鼻の
チューブを通って外へと出ていってしまいました。

既に腸が詰まり栄養を腸から吸収できなくなっていた
父にとって漢方薬はあまり効果があるとはいえません
でした。

それでも多少なりとも漢方が効いてくれれば
いいと思いその後も父には飲み続けてもらう
事にしました。

1月もあと数日で終わりを迎えようとしていた
ある日、父はお腹の張りを訴えるようになりました。
点滴しか受けておらず筋肉や脂肪が落ちた父なのに
お腹だけが異常に膨れていました。
医者が言うには、それは腹水が溜まってきている
為に起こってるのだという事でした。

腹水が溜まりだすというのは末期がん患者に
表れる特有の症状でした。

そしてそれは父の死がそう遠くない将来、
確実におとづれるであろう事を暗に示す
ものでもありました・・・。


パンチョ |MAIL

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