一橋的雑記所

目次&月別まとめ読み過去未来


2005年12月04日(日) 行けるところまで。行ける間だけ。※一回目。ホントは060501.

続けてみます。
オチは用意しておりません(何)。
無駄にだらだらと長く続ける可能性、大。
書くの嫌になったら消すかもです(何々)。

・時期は。
祭後から卒業式までの間。
詳しいタイムテーブルやら設定やらが手元にある訳ぢゃないので。
多分、公式設定色々無視しまくりな予感。

・しずなつです。一応(一応?)

・タイトルは(仮)です。なつきソングからまんま頂きなので(え)。




温む空気に甘い香りが入り混じり始めている事に気付いて。
胸の中の落ち着かなさに気付く機会が増えた。
再開された学校生活。
でも普段通りになるにはまだまだ障害も多くて。
何より、自分が頻繁に出入りしていた場所ほど。
祭の後の被害は甚大で。

「また、さぼり?」

明るく真っ直ぐな声が背中に飛んで来る。
それへ軽く右手を上げてやり過ごそうとしたけれども。

「あんた、普段が普段だったから、やばいって」

気配に気付いて振り返るのと同時に、腕を取られる。

「い、いいんだ。どうせ自習だろう?教師もまだ揃ってないんだし」
「自習でも一応、課題出てるし出席も取るのよ」

文句言わないの、と人の腕を勝手にぐいぐいと引っ張るお節介な奴。
祭の前の一時、鳴りを潜めていたその強引な姿は。
まるでその間に挟まっていた凄絶な時間を切り取って。
過去を現在にあっさりと繋ぎ合わせてしまったようなさり気なさに満ちていて。
多分、私の心はこいつに、随分と救われている。
でも。

「……ちょっと、用があるから」

邪険にならないように気をつけながら、足を止め、その手を振り払う。
それでも、ちょっと吃驚したように彼女は目を見開いた。

「何?まさかあんたまた危ないこと考えていたり」
「しないしない」
「……だよねぇ」

一瞬だけ真剣になった眼差しが緩むのへ、苦笑を返す。

「まあ…無理強いしても仕方ないか。ああでも、明日はちゃんと出るのよ?」
「分かった分かった」

面倒見が良いのにも程がある。
けれどもそこが、こいつの良い所でもあるから、否定はしない。
離した右手を、行ってらっしゃい、と振って、彼女は背を向ける。
その潔さが、ちょっと居心地良くて、面映かった。

――友だち、か……。

思わず胸の中に落とした呟きが、意外な重さを伴っていて。
私は、溜息を一つ、零していた。



綺麗な夢のその果てに・1



情報屋のヤマダが最後にサービスしてくれたバイクは。
結局、大して乗り回せない間に大破してしまったから。
今の私には己の足しかない。
住んでいた街中のマンションも引き払う羽目になった事だし。
面倒だとは思いつつ、学生寮に入る事にした。
学園敷地内にあるその建物までは、徒歩にしてそう距離は無い。
まだ就業時間内だからあまり堂々と歩くのも憚られて。
自然、校舎脇の植え込み沿いだとか、プールの裏の小路だとかを選んでいく事になる。
本当は、勿論、用なんてない。
ただ、今の自分には、校舎や教室の中になかなか、居場所を見つけ難いだけ。
全校生徒の大半がまだ戻ってきていないという理由で。
僅か1クラスに集められた高等部の生徒たちの中には。
見知った顔は多いとは言え。
そこが、自分が帰るべくして帰ってきた場所だとは到底思えなくて。

――馬鹿だな、私は。

祭が終って、全てが終った。
今まで自分が追い掛けてきたもの、全てが。
思い返せば、何て狭い場所で、独り、足掻いていた事だろう。
私を突き動かしていた復讐心もその為の行動も全て。
その復讐相手の手の上での戯れ事でしかなかったのかも知れない、と。
最後に思い至った時には、笑うしかなかった。
決して一枚板では無かった『一番地』。
そのどの部分が私を囲い、泳がせ。
躍らせていたのかは今となっては分からない。
迫水辺りを突いた所で、決して彼は口を割りはすまい。
結局、彼らの手の内で踊らされる事でしか。
あの頃の私には生きる術が無かったのだ。
私を、HiMEとして生き長らえさせる為に、だとしても。
そのお陰で今の自分がいる事は、否定出来ない。

――……あいつは。

そう結論付けた後で、ふと思い浮かんだ顔が、あった。

――あいつは、それを、どこまで知っていたのだろう。

そう思いついたら止まらなくなった。
けれども、本人に確かめようにも。
生徒会の引継ぎやら受験やらで相当忙しいらしく。
この所は、寮にすらその姿を見せないでいる。
心配を掛けまいとしてか、定期的にメールを寄越しはするけれども。
実際に顔を合わせて話したのは、数日前が最後だった。

――……会いたいな。

会って、ちゃんと確かめたい。
あいつが、どこまで気付いていたのか。
そして、聞いて欲しい。
その事であいつを責める気が私には全く、無い事を。

――……って。何を考えているのだろうな、私は。

何かから気持ちを逸らすような感触を胸の中に覚えて。
軽く、首を左右してそれを振り払う。
プールの裏道は今現在は手入れの必要性が低いと見なされているのか。
敷石の隙間から逞しく延び始めた雑草が目立つ位荒れていて。
油断すると詮無い思考に捕らわれ始める私の注意を、時々、引いてくれる。
だから、今はただ、足場の悪い小路を歩く事に専念する事にした。
そのせいだった。
いつもなら、気付いていた筈の気配に気付くのが。
ほんの一瞬、遅れた。

「……なつき?」

耳元に届いた声は、思いのほか近くて。
反射的に後ずさるようにして振り返るとそこには。
私の思考をさっきまで締めていた。
穏やかな笑みを湛えた彼女の顔があった。

「し、静留……!」
「……嫌やわ、そんな幽霊にでも会うたような顔して」

口元に手を添えて、笑顔を深くしてみせる。
そんなちょっとした仕草に、どうしようもない後悔が押し寄せる。

「や、ち、違うんだ。ちょっと、考え事をしていて、それで……」
「吃驚しただけ、どすか?」
「……う、うん……」

私が回した下手な気なんか、お見通しなのだろう。
あっさりと言葉を補うと、彼女は口元の手を下ろす。
それにしても久し振りやなあと、しみじみと呟いてみせた。

「あんじょう、学校行ってます?今日はどうやら、サボりみたいやけど」
「あ…うん、いや、今日はちょっと…用があって」
「大事な出席日数犠牲にせなあかんような、御用?」

そらたいへんやなあと、くすくす笑う。

「そやったら、引き止めて悪かったんと違います?堪忍な」
「いや……」

彼女の笑顔に、せめて苦笑いだけでも返せたら良かったのに。
私ときたら、視線を落としたまま、言葉を探しあぐねている。

「……もう、済んだんだ、実は」
「そう?」

落とした視線をゆっくりと上げた私は。
彼女が私服姿である事にやっと気付いた。

「今日は、お部屋探しやったんよ」

いつも通り、私の視線の意図を先回りして彼女は答えた。

「大学の寮は、条件が相当厳しそうやし。入れるかどうか最後まで分からしませんよってに、もう、普通のお部屋でええか思て」
「え?静留、もう、大学決まったのか?」
「ああ、そうどすなあ。なつきには、知らせ損のぉてたわ」

県外も幾つか受ける事は受けたけれども、結局。
風華の大学に進む事にしたのだと、彼女は続けた。

「中途半端な大学通う位なら、地元で進学せえ、言われそうで敵んし」

成程、彼女の実家は関西でも有数の大学街を擁する都市にある。

「……帰らなくても、良かったのか?」

つい、口をついて出た問いに、私はまた思わず視線を落とす。

「なんで?どうせいずれは戻って来い、言う話になるんやろけど。
学生の内くらいは、自由に過ごしたいわ、うちも」
「そうだな……」

今度は、上手く笑えたかもしれない。

「で、御用の済んだなつきは?今日はもぉ、寮に帰るだけどすか?」
「ああ……うん」
「ほな、一緒に行きましょか」

淡い色の長いスカートの裾をさばくような足取りで、彼女は私に背を向けた。
いつからだったろう。
彼女が、決して私の横を歩かなくなったのは。
後ろを行く事もまた、なくて。
必ず、少し前を歩いて私には、背中越しの横顔しか見せない。
それはまた同時に。
私の顔をまともにみない位置を必ずとる、という事だ。
それは、祭以降の二人の間に彼女が置いた、ルール。


「そや。今日は晩御飯、どないしはりますのん?鴇羽さんらと一緒?」
「いや。特には、決めていない」
「なら、久し振りにうちがご馳走しましょか?」

月杜まで出掛けてたから色々と食材を買い込めたし、良かったらと。
穏やかな声音で彼女は続けた。
多分ここで私が否と言っても彼女は。
決して、傷ついた顔を見せたりはしないのだろう。
そう思わせる、静かな、けれども。
どこか遠い声。

「……うん。頼む」

答えた私の声は、我ながら。
どうにも頼りなく、小さかったけれども。
彼女は振り返らなかった。
ただ、嫌やわ、頼むやなんて水臭いわぁ…と。
当たり前のような声音を、背中越しに返すだけだった。



続く……かもしれない。
つか、そろそろ人名・用語を辞書登録しろよ、己……(其処?!)。
<060501.>


一橋@胡乱。 |一言物申す!(メールフォーム)

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