私は、父が好きだった。勿論、今でも大好き。ただ、彼はもう この世にはいなくて、そうして、私の、たった一人の『父』に なってしまったのだ。そのせいもあるのかどうか、どうやら私は 男の人というものに、父の面影を、断片的にではあるが、求めて いるらしい。
どんなに小さな事でもいいから、私に父を思い出させてくれる人を、 私は求めている。…だけど、父は、自分の命を無くしても、子供は 絶対に守ると言ってくれるような、そんな人だったから、そんな人は 恋人として探してもなかなかいなくて、誰と出会っても、それは 父ではないのだから…それが哀しくて泣けてきてしまう。
私は、好きな人に、父を見ているんだと、そう気付いた時に 心の中で涙が溢れて、涙で前も見えなくなっていく。 見えない涙は、心をつたって、それが、胸を苦しくさせる。
もうさすがに、彼を思い出して泣きながら目を覚ます事も、眠れずに 泣き通す夜もやっては来ないけれど、だけど私は、まだまだ、 父を探して困って、ここに立ち尽くしている。
小さな頃から、心が傷ついて悲鳴をあげているような時は、それを 表に出せずに苦しんでいる小さな私に、父は、いつも何も言わずに そっと掌で、頭を撫でてくれる。…胸をかしてくれる。 あの掌が、今は恋しい。
他のどんな人の掌より、それは暖かで、優しくて、超えられない 大切な絆だったのだ。
父が、祖父から受け継いだもの。私が父から、受け継いだもの。
絆は、まだ切れていない。ちゃんと、ここに、あるよ。 だけど、私は苦しいの。私はまだ、それを繋げる事が出来ずに、いる。
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