少し前に。夜遅く、貴方に電話をしたことがあった。 その時はまだお付き合いも何もしていなくて、 多分貴方も私をただの人間としてしか思わなかったと思うけれど。
人生は上手く行かない。 好きな人は手に入らないし、その心に触れることも出来ず。 優しくされても冷たくされても、胸を揺さぶられて、 どうしても、届かない。
家にはどうしようもない人がひとり。 自分のせいで壊れた人がひとり。 見てるだけで憂鬱になる。励ましても言葉は届かない。
どこかで何かを間違えたのかと思う。 でも、過去を追っても、届かない。 亡くした人を想うことも、止める事はできず。 痛みが止む事も、やはり無くて。胸が疼く。その声を。
そんな行き詰まりを考えていたら、突然、現実感が消えた。
「怖い」「悲しい」「悲しい」「悲しい」
時々こうして、ストンと穴に落ちる。この手が、脳が、悲しくて、 此処に居る事が悲しくて、この躰が悲しくて、消えてしまいたくなる。
この気持ちを抱えているのが辛くて、誰かに電話をかけようと思って。 携帯電話のアドレスを見回したけれど「…多分誰も解ってくれない。」 そんな事に気付いて、更に穴を落ちる途中で、貴方の事を思い出した。
貴方ならきっと、同情もせず、頑張れとも言わずに話してくれるかと。 聞いてくれるかと思ったのか。
長い間、知っては居たけど、使う機会すらなかった番号。 ほんの少しの躊躇いのあと、私は発信のボタンを押す。 …呼び出し音のひとつひとつが、やけに長く感じた。
|