男って・・どうして女を苛めるんだろう。おまけに苛めておいて笑うんだろう・・。 目の前で男ふたりが笑い転げているんだよ!私は・・泣いているのにさ〜
事の発端は“宝くじ”に当たったらと私が言い出してしまったからだ。 私の夢は日本中を旅すること。イチバン先に北海道へ行きたいよ! もう20年くらい温めている夢なのね。でも未だに行けないのだ・・。
夫は一昨年だったか社員旅行で行ったからいいのだ。行くなら独りで行きたいのだ。 「おまえが独りで行ける訳ないだろ!」と夫が言い、「迷子になって行方不明になれ!」と息子が言う。 そしてそのうえ「宝くじが当たる訳ないだろが〜」と声を揃えて夢を壊す。
じゃあ・・“生命保険”が入るまで我慢するもん!私より先に死んでよね!と言ってやった。 こうなったら未亡人の一人旅だからね。ああ・・待ち焦がれていた自由を手に入れるのだ。 そして私は目を閉じて夢をいっぱい膨らませたの。なぜか年をとってなくて今のまんまの私がいる。 よぼよぼのおばあちゃんじゃ・・夢も希望もないよ。今じゃなきゃいやだよ〜
「あんね・・あんたが先に死ぬかもよ!」息子が言う。 「そうだ!そうだ!」と夫が笑う。
その後・・男達の妄想が膨らみ始めた。私はビールをぐいっと飲み干し唇を噛んでいる。
私が死んで灰になったら・・北海道に散骨に行ってくれるそうだ。 いったい何処らへんにばら撒いてくれるのだろう・・。 そして息子はしっかりと位牌を抱きしめ・・ 「母さんこれが北海道だぜ!母さんの憧れていた場所だよ・・ほらよく見ておくんだよ!」 「やっと来れたね・・母さん・・嬉しいね・・」 息子は目に涙をためて亡き母を想うのだった。
そして夫は・・「生きているうちに俺が連れて来てやればよかったよ・・すまないな・・」 そう呟き曇る眼鏡を外し目頭を押さえるのだった。
初冬の風が肌を刺す。男達はオホーツクの海へ私を流す。 男達の沈んだ顔が微笑みに変る時・・私はやっと独りになるのだ。
「父さん!ついでに位牌も流しちゃおうか?」 「うん!そうだな!毎日線香立てるのもめんどくさいしな!」
男達は颯爽と歩き始める。「金はたっぷりとあるぞ!旨いもんいっぱい食って帰ろう!」
私は・・それでもいいもん。夢が叶うなら・・それでもいいのだ。
あっかんべ〜だ!!
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