花冷えをそのままに少し冷たい雨の一日となる。
それはやはり花散らしの雨になってしまって お大師堂の石段にも桜の花びらがたくさん落ちていた。
顔なじみのお遍路さんと語り合いながら はらはらと散っていく桜の木を二人で見上げる。
「俺はさあ、もういつ死んでもいいんだ」
そのお遍路さんは会うたびにいつもそう言う。 その言葉を聞くたびになんともいえないせつなさが込み上げてくる。
「私はね。もっともっと生きたいの」そう言うとにっこりと微笑んでくれる。
出会った頃はとても無口で無愛想な人だと思っていた。 けれども何度が会っているうちに少しずつ語り合えるようになった。 何よりも嬉しいのは笑顔を見せてくれるようになったことだ。
名前も知らない。どこの出身なのかも知らない。 もちろんどうして職業遍路の道を選んだのかも聞くことは出来なかった。
「お地蔵さんのお遍路さん」とこころの中でそう呼んでいる。 そのお遍路さんは道端のどんな小さなお地蔵さんにもお経を唱えていると聞いていた。
どんなにかこころの優しいひとなのだと思う。ほっこりとあたたかくて。 けれどもいつも厳しい顔をしているのは、背負っているものが重過ぎる。
その重さを少しでも分かち合えたらと思うけれど何も出来ず ただ一瞬でも笑顔になってくれたら良いなといつも願っている。
「桜も終わりだな」って言ったけれど始まることがきっとある。
それぞれの生き方があるようにそれぞれの春がそこにあった。
追記:花風邪は峠を越えて今日はずいぶんと楽になった。
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