悲しい
ある男性が亡くなっていた。
私が「嘘」について、ちょうど1年前に別の場所で書いた時
コメントをくれたSさん。
私は彼に嘘をつき、Sさんは付き合っていた女性から
嘘をつかれ続けていた、正反対の立場だった。
それなのに、Sさんは私に礼儀正しいコメントをくれた。
スポーツマンで海を愛していた様子が、Sさんの日記の
あちこちにあった。

私が「嘘」について書いた頃、ちょうど退院直後だった
ようだ。
Sさんの日記を最初から全部読んで、どんな気持ちで
私の日記に感想を書いてくれたのかと、考え込んだ。

1年前の一途さや、真摯な気持ちが薄れ、
元々猜疑心の塊だった私に、最近では拍車がかかっている。
だから、近親者だと名乗る人の最期の知らせを読んで
私は簡単に信じられなかった。

ネット上には、日記風の私小説や釣りのサイトがあること。
違法サイトだけでなく、愉快犯的なサイトがある。
そんなことをあれこれ考えて、Sさんの死を
受け入れられなかった。

だけど、Sさんが途切れ途切れに書いていたものは
作り話だと思わない。
何年もの間、Sさんと婚約しながら、既婚男性と
隠れて付き合い、別れたと言っては、嘘を重ねた彼女。
Sさんを精神的に殺した。
嘘をつくなら墓場まで持っていけ。
自分が苦しいからといって、ついた嘘をバラすな。

きっといいことあるよ
自分に言い聞かせ、なんとか現実の世界に戻ろうとする。
そして、また狂気の世界へ戻る。
Sさんは死を望み続けた。
自殺未遂を繰り返し、そのたびに監視の目がきつくなった。

Sさんは遂に逝ってしまった。

悲しい
日記を閉じたあと、何度も呟いた。
何が悲しいのかわからない。
涙は出ない。
Sさんの望みが叶ったのに、悲しかった。

数年前のクリスマスイブに、無理心中をして
自分だけ逝ってしまった友人を思い出した。
彼女の死に顔が目に焼き付いて離れない。
安らかな死に顔ではなかった。
10年前、狂気の宿った目で私を覗き込み
数時間後に車に飛び込んだ知り合いの目が甦る。

生は悲しい 死もまた悲しい。



2004年11月21日(日)

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