2003年08月06日(水) |
第5章 思いがけない出来事 |
私たちは、バーを出た。
「今日は、ごちそうさまでした。」
そう言おうと声を出しかけた時だった。
先に口を開いたのは、彼の方だった。
「お泊りセット持ってきたか?」
「えぇっ!」
いくら、無邪気で、鈍感な私でも、こんな時間に、このタイミングでこの言葉を聞くと、 その意味の全部を理解する事はできた。
「まさか、あれ、本気だったんですか?!」 「もちろん」
いっぺんに私の頭を色々な思いが駆け巡った。 困惑したような私の肩をぐっと引き寄せて、彼は、歩き出した。
面接の時はじめて彼を見て好印象だった、 会社に入って彼と会話を交わすようになってからも、 その印象は、かわらなかった。
ただそれは、恋愛感情とは、全く違ったものだった。
いや、それは、彼が既婚者であるという事実が、私をセーブさせていたのかもしれない。
アルコールのせいなのか、 それとも、初めて社内以外で彼とたくさん話して、 たくさん彼を知ったせいなのか、 私は、まだ、この現実を完全に飲み込めないまま、彼に従って歩いた。
冬の冷たい風で、冷え切った私は、彼のぬくもりを感じながら、寄り添っていた。 あるホテルを彼は、予約していた。
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