2003年08月22日(金) |
第19章 久しぶりの感触 |
その日の夜、仕事が終わってから、私は約束の店で待っていた。
15分遅れて彼がやってきた。
「ごめんごめん、これでも走って来たんだ。」 以前と変わらぬやさしい声。
私は、これまで会わなかった一ヶ月間が嘘のような彼の態度を 不思議に思いながら彼の顔をじっと見た。
優しい顔である。
「どうして、いままで会ってくれなかったの?」私はこわごわ聞いた。 「お前が、弱くなってたから。」 「色々、ありすぎて、一人ぼっちな気分だったから、弱くもなってしまうよ」 「お前も俺も二人が弱ってる時に会ってどうなる。」 「じゃあどうして今日は会ってくれたの?」 「会いたかったから。それに、お前ももう大丈夫だから」
(大丈夫?誰が?私は、全然大丈夫なんかじゃないよ! 大口の仕事が決まったって、ちっともうれしくない。 変な手紙だって、時々くるんだから!! そんな時、ほんとは助けてもらいたいよ!) 私は心の中で、思い切り叫んだ。
会わなかった時を埋めるように私たちは、色々話し合った。
「お前は、俺のこと好きか?」唐突に彼が聞いた。
「うん、好き。。。。あきらちゃんは?」 「好きだよ。」
なぜこんなことを彼が聞いたのだろうか。
今なら、わかる。 既婚者の彼と、私が、会い続けるためには、社内で、おおっぴらになってはならない。 行動を自重しなければならないんだよ。と、言いたかったのだろう。
しかし、その頃の私は、幼い考え方しか持ち合わせていなかった。
それに、あの怪文書に、動揺していることもあって、正しい判断力にも欠けていたし。
今思えば、あまりにも自分で自分を悲劇のヒロインにしたてあげ過ぎていた部分があった。
その夜、私は、彼に抱かれた。
久しぶりに間近で見る彼、 無駄な贅肉のない身体、程よく付いた筋肉、広くてがっしりした肩、スジの通った指。
久しぶりに合ったせいか、彼は、私を激しく抱いた。 二人は、息が詰まるほどキスをした。 お互いの気持ちを確かめ合うように何度も何度も。
そして二人は、身を寄せ合って眠った。
なにもかも、以前と変わらぬ彼のすべてに包まれて私は眠った。
|