2003年08月30日(土) |
第25章 好転の兆し |
復讐の日々が始まってから、ほぼ一年の月日が流れた。
高瀬さんに心を許してからほんの少しだけ、 私の頑なな心は、開き始めていた。
食事も普通に取れるようになり、どうにか、体重も44kgまで戻った。 (そこからは、なぜか、いくら食べても太れなかったが・・・) 精神的にも、落ち着きを取り戻し始めたのだろう。
そうなると、周りの状況も不思議と見えてくるものである。
気が付くと、この苦しかった日々の成果が、次々と一気に現れ始めていた。
以前、駆けずり回った得意先は、こちらから出向かなくとも、 私との商談の為に向こうから、アポイントを取ってくる。 本来デザイナーである私は、忙しければ、 商談は、営業の人に任せられるのだが、数多くの得意先のバイヤーたちは、 私との商談を希望した。私のスケジュールが合わない場合、お客様である側の 彼らの方が、わざわざスケジュールを変更して、各地から訪問してくださった。
そして、「うちの会社の企画会議にも是非出席してください。」と、 声をかけてくださるバイヤーまで、現れはじめた。
そして、以前、心無い人の言葉を信じ、表面だけの対応しかしてくれなかった 私の部下たちは、毎晩遅くまで仕事をこなしていた私を見て、自ら率先して、 私の仕事の手助けをしてくれた。
そればかりではなく、 社内で、「あの人は、とてもいい人です。あの噂は、りかさんを妬んだ人たちのでっち上げとしか思えません」と、ずっと、言い続けてくれていたのだとわかった。
こうなると、チームワークもよくなって、仕事の流れも益々スムーズになり、 うなぎのぼりに数字に表れていった。
私の心からは、もはや、会社の人たちへの復讐心は消えていた。
そんなことより、自分の企画した服をバイヤーが、 次々契約してくれる事の喜びを感じ、 心から仕事が、楽しくて仕方なくなっていた。
ある日私は、大切な得意先へ出向く為、社長と二人で、日帰りの出張をした。
その帰り、よく頑張っている褒美にと言って、 社長に豪華な食事に連れて行ってもらった。
そこで、仕事の話をしばらくした後、あらたまって社長は私にこう言った。
「いままで、よく頑張ったね。あの環境の中で、並々ならぬ努力だったと思う。辛かっただろう。このくそオヤジは何を言ってるんだ、と思っていただろうね。悪かった。。許してもらえるかな」
そう言うと、私に向かって、深々と頭を下げたのだ。
驚いた私は、社長に正直な気持ちを伝えた。
「いえ、あれは、私にも悪いところが多々ありました。考えが子供だったんです。私が、これまで頑張ってこれたのは、くやしい、みかえしてやりたい、 そんな気持ちがあったからです。 それがなければ、ここまでのことはできなかったと思います。 だけど、いまは、頑張ってきてよかったと思っています。 いつの間にか、仕事が楽しくなっていました。」
次の日の朝礼で、社長はいつもの挨拶の後、こう付け加えた。
「毎週貼りだしてしる、売り上げ報告を見れば確認できるとおもうが いま、一人の売り上げでこの会社の利益の三分の二を上げている人物がいる。 一人でここまでやったのは、この人が始めてだし、これからこんな記録を残せる人間が果たしているかどうか。 人の失敗を利用して、自分の地位を上げていく人間がいる中で、 その期間、コツコツ努力を積み重ねてこれだけの立派な成果をあげた人間が、 本物の勝利をつかんだのだと僕は思います。」
少し嫌味を含んだこの言葉に、社内の人間は、誰の事を言っているか、一目瞭然であった。
それから、数ヵ月後、例の「心無い人」は、自ら退職していった。
私に降りかかっていた疑いの目が、徐々に彼女に向けられていたので、 会社にいづらくなっていたのだろう。
この時点での私にとっては、もうどうでも良いことであったが。。。。
こうして、辛く長い日々を経て、社内の私の信用は、 以前の数倍にもなって、戻ってきた。
精神的にはかなり楽になるはずであるが、 私は、まだ、苦しんでいた。
それは、あきらちゃんに対する未練である。
いまだに、彼に対しての想いを持ち続けていた。 未練というよりは、むしろ、プライドを傷つけられたことによる一種のトラウマのようなものだったのかもしれない。
一緒に仕事をしているあきらちゃんと、みかちゃんの仲は、まだ続いているようであった。
かろうじて、平静を装えたものの、それをみているのは、とても辛かった。
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