2003年09月08日(月) |
第30章 つかの間の至福(続き) |
山上さんと会うようになってから、 山上さんは、いつもいつも、私にはやさしかった。
しかし、私は、うれしい反面、過去にあきらちゃんとのことが原因で、 辛い出来事があったことを踏まえた、用心のようなものがあった。
言葉でなかなか説明できないが、おおまかに言うと、
このままずるずると付き合いを続けることはよくない。 どこかで、ストップをかけなければいけない。そんな思いやら、
今は、確かに山上さんの事が好きではあるけれども、 かつて、あきらちゃんに恋をしていたときの気持ちのほうが、 大きかったななどと、 心の片隅では、いつも、あきらちゃんが生きていたというか。。。
よく、別れた相手を恨んでいるうちは、 まだその相手に未練があるという事だ。 といわれるが、まさしくそれだったのかもしれない。
自分では、よくわからない。
とにかく、どこかでセーブする自分が常につきまとった。
そんな私に山上さんはよく、 「りかちゃんは、俺のことどう思ってるの?」とか、 「りかちゃん、俺に敬語使うのは、そろそろやめてくれないかな」とか 悲しそうに言っていた。
山上さんとの仲が深いものになってからの方が、 なかなか本心をあらわすことがなかった。
退社まで、あと一週間という頃、一人でまた、休憩室にいた時だった。
ふいに、あきらちゃんが入ってきて、私に一つの包みを手渡した。
数年前のあの日以来、こんな風にあきらちゃんと向き合ったのは、 久しぶりの事だった。
「これ、せんべつに・・・気に入るかわからないけど」 そう言うと、その場から立ち去った。
中の包みを開けると、昔、私がほしがっていた時計だった。
覚えてくれていたんだ。 私は、言いようの無い喜びを感じた。 懐かしいような、胸がキュンとなるような。 私の中で、あきらちゃんは、確実に生きていたようだった。
かと言って、あきらちゃんにまた、アタックしようなどと、思っていたわけでもない。
山上さんに対して、気持ちがなくなったわけではなかった。
山上さんは、既婚者である。 そして、私の中には、奥底に仕舞い込んでいたあきらちゃんへの思いが まだ、生きている事に気付いてしまったのだ。
これ以上続けていては、新しいスタートを切ることは絶対に不可能である
会社を辞めることを機に、山上さんとの関係も終わらせたほうがいいだろう。
私の決心は固まった。
|