2003年10月12日(日) |
第48章 最大の悲しみ(part1) |
しゃがみこんだ私を見て、あきらちゃんは、驚いて、 私を抱き上げ、車に乗せた。
そのまま、家まで運んでもらい、不器用な手つきで、台所に立ち、 おかゆを作ってくれた。
そして、私の身体を気遣って、幾分やさしく私に言った。 「お金は、月々すこしづつ返していくよ。。。。」
ひと晩、私に付き添ってくれたあきらちゃんは、次の日の朝、 一緒に暮らした部屋を後にした。
コタツの上に、鍵を置いて、残りの着替えをみんな持って出て行った。
「もう、帰って来ない?」弱々しく私が訪ねる。 「三年は、戻れないと思う。」 「三年たったら?」 「三年たって、俺が、ちゃんと出来てたら、戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。」
三年たっても、戻ってこないだろう。。。私には、わかる。 長い間、あきらちゃんへの想いをずっとずっと背負って生きていたのだから。 あきらちゃんの考えていることくらい、ちゃんとわかる。
こうして、私とあきらちゃんの、甘い関係は、終わりを告げた。 少なくとも、今、現在の私の中では、そう考えている。 この時で、終わったのだと。
次の日から、私は、夜だけ働きに出かけた。
これまでのように、服飾のデザイナーとしての職を見つけて 昼間に働きたいとも思っていたが、現実問題として、お金の事をまず片付けてから。。。 そう思っていた。
いや、そうではないのかもしれない。。。
今、冷静にあの時を思い出してみると、 正直なところ、夜に働く事で、私は、あきらちゃんと別れた事を 悲しんでいる自分を 少しでも誤魔化したいと考えていたと思う。
夜の、酒場で働く事は、それをかなえるのに格好の場所であった。
お店では、私が、ごく自然な発想で、お客さんと会話を交わすので、 その、接客ずれしていない、素人的なところが受けたのか、 みんなに「りかちゃんが入っている日は、毎日来るよ」 と可愛がってもらえた。
ママも、「りかちゃんは、ここで、一番人気なんだから。頑張ってね。」 お店の片付けの時にいつも言っていた。有難い事だった。
私も、お店で働いている間は、あきらちゃんとの事を 少しでも 紛らわす事ができたし、会社の役職者達が、お店で交わす会話は、 同じ会社なら絶対に話さないであろうプライベートな人間模様や人生観ばかりで、 こんな人たちでも、こんな事で悩むのか。。 などと、新鮮な気持ちで、会話を楽しめた。
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