2003年10月16日(木) |
第49章 信頼できるお客さん(part2) |
お店での仕事には、すっかり慣れていた。
お客さんが、タバコを持てば、すぐに火を付けにいくことも、 グラスのお酒が少なくなれば、すぐにボトルのお酒を注ぐ事も。 条件反射のように、自然にそれらのことに手が動くように、 身体に身についていた。。
カウンターメインのお店の為、ほとんどカウンターで過ごしたが、 それでも、数人で来られるお客さんの為に、ボックス席も少しあった。 そのボックス席で、お客さんの横に座り、 にこやかに会話を交わしながら、お酒を注ぐことにも慣れた。
いくら客筋の良い店だと言っても、みんなお酒を飲んでいる。 いろいろな人がいた。 おとなしく、カラオケや会話を楽しむだけの人もいれば、 食事に誘う人、携帯番号を聞いてくる人、愛人にならないかと、 誘ってくる人。。。 苦手な人も、少なくはなかった。 やんわりとした断わり方も、身に付いていた。
私は、それらに応じる事は、決してなかった。 携帯の番号さえ、冷たいと言われながらも 頑なに、誰にも教える事はなかった。
反面、為になる会話も、たくさんできたと思う。
父と同じ年くらいのおじさんの、昔のせつない恋愛話や、 大学教授の、雑学的な話。 会社の上司や経営者としての、仕事の悩みや考え。
通常なら、決してこの人達とは、できないであろう会話を いろいろな人たちが、毎日、このちっぽけな私を相手に話す。 私は、それらの会話が嫌いではなかった。 そして、胸にしみる話もたくさんあった。
みんな、その場では、カラオケをしたり、馬鹿な事を言って、笑っているが、 こんなに社会的に成功したと思われる人たちでも 人それぞれ、色々な悲しみや、苦労を密かに抱えて、 生活を送っているのだと、 心で、考えさせられる事も、しばしばあった。
たまに、お店が終わってから、常連のお客さんたちと、食事に行ったり、 飲みに行ったりする機会も何度かあった。
私を目当てで来てくれているお客さんの為に、ママが、指示するのだが、 二人では、危険だと思われるお客さんの時は、 ママや、他の女の子も一緒に来てくれて、 数少ないが、ごく、信用できるお客さんの場合は、私だけで行く事もあった。
ママの指示がない限り、誘われても、絶対に行くことはなかったし、 私自身も、それに応じる気には、決してならなかった。
|