林心平の自宅出産日記

2004年12月05日(日) もよおしそうな人もいれば無事に産んだ人もあり

 先日、帰宅すると一心不乱に机に向かっている妻の姿がありました。一日中、『本のすすめ』の表紙作りに没頭していたのです。
 『本のすすめ』というのは、個人で作っている隔月刊の、本を紹介する小冊子です。第14号ができました。毎号、妻が表紙を作ってくれているのですが、今回も素敵なものを描いてくれました。

 この週末は、部屋の大模様替えが敢行されました。だいたいぼくはものぐさなたちなので、めったなことでは、模様替えをしようなどと考えつきません。反対に、妻は、よりよいものを求めて、納得がいくまでとことんやるタイプなので、妊娠していようが、ものすごい勢いで家具の配置換えなどに着手します。
 金曜日に帰宅すると、部屋の様子がまるで変わっていました。本棚は解体され移動し、中の本は全て出され、ダイニングテーブルの向きは変わり、ぼくの重たい机の場所も変わっていました。いったい、これが妊婦さんのやったことなのでしょうか。
「テレビを観るときの向きが気になっていたの」と妻は言いました。たしかに、前回の模様替えの結果、テレビに対して斜めに向き合うようなことになっていました。それを改善するべく、妻はこの重労働をなしとげたようでした。
 土曜日は朝から夜中の2時まで、模様替えの続きでした。子どもたちの二段ベッドは解体され、別の部屋に移動させられ組み立てられ再び解体され移動させられ、本棚は移動しました。おかげでぼくの書斎コーナー兼洗濯物干し場が居間の一角に確保され、押入れの中にあった、岩波少年文庫たちも本棚に並べられました。
 妻は、起き上がれないほどの腰痛になってしまいましたが、それでも満足そうでした。

 日曜日は、助産婦さんが来る、定期健診の日でした。朝10時の約束でした。電話の音で起こされると、もう、9時でした。昨日の模様替えですっかりくたびれてしまい、子どもたちも起きていたのに、すっかり眠っていたようです。
 あわてて電話に出ようとすると、そばにいた子どもの髪を踏んづけてしまったようでした。
「痛いよ」と言われましたが、それにはこたえず、走って電話に出ると助産婦さんからでした。
「今、別のお宅に来ているんですが、もよおしそうなんです。お産が早くすんだら、午後から行けますが、来週にしていただいてもいいですし。ご都合はいかがですか。平日じゃあ、ないほうがいいんですか」
 ぼくはあわてた。「もよおしそう」だなんて人がいるのに、早く返事をしなくちゃ。手帳はどこだ。ない。カレンダーはどこだ。壁にかかってない。あわてて走っていって、カレンダーを子ども部屋で見つけました。模様替えの最中に、子どもたちに持ち去られていたのです。
「お待たせしました。来週の日曜日にしてください。」
「わかりました。それじゃあ、日曜日の10時に予約、ということにしましょう。ごめんください」
 なんだか、寝起きだったせいもありましたが、知らない人のお産にあわててしまいました。対照的に、助産婦さんはいつもとまったく変わらない、ゆっくりとした口調でした。そこにベテランさを感じました。

 自宅出産を希望されていたイギリスの雑把さんが、無事に自宅でお産をされたそうです。おめでとうございます。
 その知らせには「楽しかった」と書いてありました。それを読み、妻はしみじみと
「安産は自分でつくるものなんだね。雑把さんは、たくさん勉強もして、散歩もいっぱいしたんだね。私も、腰痛だって愚痴を言っていないで頑張ろう」
と言いました。
 それから、もくもくと自転車こぎにとりくんでいました。

 外は大雪です。すっかり真っ白になった、お隣の邸宅の庭の雪明りがきれいだったので、照明を消して、夕食を食べました。


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