書泉シランデの日記

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『縛られた村』
2004年10月17日(日)

『縛られた村』 朱 暁平/訳 杉本達夫

早稲田大学出版部で出している新しい中国文学シリーズの1冊。文革期農村下放青年の目に映った村人たちをそれぞれ主人公とする短編連作。下放青年の苦労話ではない。

村の生産大隊の隊長の狡猾さ。私腹を肥やすことがないではないが、まずは村のために知恵をめぐらす愛すべきずる男。

渡りの刈り屋に恋をする娘・・・美しく、かつ貧しいがためにそれまで義父のいいように利用され、虐待されている娘。彼女なりにあれこれ反逆を試みて、村の女からは忌み嫌われるが、ついに清らかな恋に落ちた。行き着く先は悲劇。

若いときは男気たっぷり、流浪の果てに故郷に戻った老人。農作業のわざとてなく、羊の番をしたり、石臼をひく牛の番をして暮す。ところが・・・。

そのほか、殺人犯容疑で村八分にされながら、幼い息子を育てる父親の話とか、茶碗焼き職人の話とか、縁組大好きおばさんの話など、全部で6話。切なく悲しく暖かい。

タイトルは、土地に縛られ、因習に縛られ、貧しさに縛られ、などの事柄を示唆するのかな。

作品自体に独創性があるとか、実験性があるとかいうものではないが、安心して面白く読めた。こういうことも小説にとって大事なことだと思う。田舎の農民の言葉がどこやら名古屋弁風(三河弁?)なのが、訳の新味といえば、新味。昔はこういうときは東北弁と相場が決まっていたけれど、この頃は差別観とのからみでなかなか大変なのではなかろうか。
★★




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