書泉シランデの日記

書泉シランデ【MAIL

My追加

『音楽と社会』 バレンボイム/サイード対談集
2004年11月01日(月)

『音楽と社会』 バレンボイム&サイード

バレンボイムに限らず、音楽家にはユダヤ人が多い。しかし、バレンボイムほど発言して、物議をかもしだす大物音楽家はいない。新しいところでは、今年に入ってからも、イスラエルからもらった何だかの栄誉賞の賞金をパレスチナの音楽学校に寄付して、栄誉剥奪だとかで一騒動あった。その前にはベルリン国立歌劇場の常任指揮者の人選をめぐって出てきた政治家の反ユダヤ的発言への反論。その前に、イスラエルでのワーグナー上演をめぐるごたごた、アラブ、パレスチナの若い音楽家とイスラエルやドイツの若い音楽家とをいっしょにしたワークショップ・・・、言論的にはさほど考え抜いた言説だとは感じられないが、音楽家としてはユダヤーパレスチナ問題をめぐって非常に積極的に動いている人だといえる。

かたやサイードは『オリエンタリズム』で一世風靡のパレスチナ人学者(ただし、パレスチナで成長したわけではない)で、パレスチナをめぐる発言や活動も多く、この対談集がどのようなものなのか――政治的な色合いの濃いプロパガンダ的なものなのかどうか、気にしつつ、¥2800の値段に逡巡し、買わないでいた。バレンボイム自身は割合とナイーブな発言者だと思うので。

読んでみると、♪音楽への愛情と関心にひっぱられて、パレスチナ情勢の不条理をどう捉えるか、なんていうろころまではなかなか到達していない。譜面の解釈や音作りなど音楽談義にかなり時間が割かれ、ワーグナーを中心にすえての社会や政治との関係、反ユダヤ主義などで、音楽4分の3、社会4分の1といったところか。話題をリードしていくはずのサイードはピアノをひくし、音楽大好き人間だから、そりゃあバレンボイムから聞き出すとなれば、音の話が聞きたかろうよ、と、結果こうなってしまうことは、想像の範囲内である。

しかし、ときどき思うのだけれど、世界は西洋音楽に席巻されすぎてやしないだろうか?音楽こそ文化的帝国主義の尖兵なんじゃないか?かくいう私も謡曲だの長唄だのよりは、断然西洋ものを取るのだが、これって民族固有の音をなくした、漂泊の耳なんじゃないかね?このことを思うと、ちょっとだけ居心地が悪くなる。西洋音楽だけが普遍性を持つものだとは考えたくないので。

みすず書房
★★★
* * *


バレンボイムは肩を痛めて、先月ベルリンでのコンサートをキャンセルしたとか聞くが、来年2月の東京は大丈夫かしらん?




BACK   NEXT
目次ページ