書泉シランデの日記

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『横書き登場』
2004年11月02日(火)

温度差が違う人がいると会議は疲れる。私はあきらめがいいのだろうか?現実的なのだろうか?それとも単に逃避的なだけ?少なくとも人と一緒に燃えるということは苦手だし、人を襲う大きな不条理に比べれば、仕事上の不運なんてしれたもんだ、ということだけは頭のどこかにいつも張り付いている。

さて 『横書き登場』  屋名池誠
日本語の横書きの歴史を追った労作である。
右からの横書きと左からの横書き(これは左からの横書き)があることにきづいている人は少なくないだろう。右横書きは一字ずつの縦書きなのだ、と知っている人も多かろう。でも、それって本当にそうなの?

というわけで、屋名池氏の追求が始まった。実際、この本を読んでいて驚かされるのは、いつから左横書きに統一されたか、とか、なぜ横書きが始まったか、などの発見ではなくて(それも尤もな論証であるが)、書道を対象から除外しても、書字のスタイルとはかように多様であったか、ということ。

それにしてもよくまあ、たんねんに様々な書字様式を集めたこと。曼荼羅の経文に始まり、木綿襷の和歌、オランダ本草、蘭字を模した装飾の額縁、古い切符や広告、造幣局の帳簿、夏目漱石のノート、左右対称の横書きのある雑誌、お嬢様雑誌のキャプションに時刻表、街角の看板、レコードのラベル、マッチ、ポスター・・・ありとあらゆるものに字というのは書かれているのだねえ・・・。

こういう資料の収集途上で、著者は一度ならず空しい思いに駆られたに違いない。集めること自体はしばらくやってコツをつかめば、ある種のルーティンになるだろうし、どだい個々のものは単独では全く意味をなさない。古人の知的営みでもなければ、歴史に関わる文書でもないのだ。ゴミのような資料を集め続けたその根気に拍手、である。

たかだか新書とはいえ、これはなかなか日本語表記史の金字塔。縦書き専用から右横書き併用縦書きを経て、左横書き併用縦書き、そして今は縦書き併用左横書き時代に入ったところだということになる。国語の教科書もいずれ横書きになるのだろうかね。私の予想では、最後まで縦書きが堅持されるのは漢文の教科書だろう。学生のとき、横書きを試みたのだけれど、どうしても返り点がうまく処理できなかったから。

岩波新書
★★★






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