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『日本史の中の天皇』
2004年11月12日(金)

『日本史の中の天皇 宗教学から見た天皇制』 村上重義

いまどき天皇が神だと思っている人はいないだろうけれど、神のような超越した存在だと思う人はいるかもしれない。天皇制というのは不思議な制度だと、かねてから思っていた。特に武家政権と両立していた時代のことなど、実に奇妙な、極端にいえば、名前だけの叙位任官権と改元権を与えられて細々とやっていく伝統芸みたいなところもあるし、実権が全くない歴史が鎌倉時代以来長かったのに(天皇が島流しにされたりもしたし)、明治維新から70数年ほどの間に限って、極端な絶対君主になっちゃって、かと思えば、敗戦でいっきに「象徴」だなんて、いったい何なの?

でも、「天皇」と名がつく書物は、往々にしてまず結論ありき、みたいな感じなので、あまり手を出さないでいた。予め用意された都合のいい資料を披露されての幼稚な議論につきあわされるのって嫌じゃありません?さりとて、ちんぷんかんぷんも困るけれど。

この本は、宗教学者が書いたもので、三種の神器とか、天皇家の祭祀とか、天皇家の祖神とか、なんとなくそんなもんだ、と思っていたことが逐一解説されており、それだけでも読む価値があった。天皇家とかかわりの深い儀式がずいぶんと中国起源であることもびっくりだが、もっと驚いたのは、明治になってから形式が整えられた新しい祭祀が多いこと!まるで明治維新で日本は神官に率いられた古代国家になったみたい。明治維新って近代化ばかりと思っていたら、まったく逆行するようなこともしていたようです。この列島で暮らす人々の生活の中から生まれていた祭りを破壊して、観念的な神道の祭りを押し付けたようで。(天皇だって、神道オンリーになったのは明治になってから。幕末の孝明天皇までは仏葬だったとか。)

淡々と記されてはいるが、憲法上の天皇の規定は戦前と大幅に違うのに、皇室典範のほうはあまり変わっていないらしく、そのあたり、急いで前例を踏襲して決められたままいまや60年が経過。こんなことでいいのかなあ・・・。そもそも国民が無関心なために、昔ながらのやりかたでも後ろ指を指されないのですね。もっと風通しをよくしないと健康に悪いです。

国民が歴史的、文化的な特色や制度的現状を知らなさ過ぎるのはちょっと問題ではないの?それでは議論にもなりはしない。関心のある人は、こういう本を読んでみるのもいいと思う。主義主張のある人には物足りない本かもしれないが、それにしても、ずいぶん知らなかったことがたくさんあるのではないかしら?

講談社学術文庫って好きです。こういう本が1000円以下で入手できるって大事なことだと思う。
講談社学術文庫
★★★






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