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『グアヴァ園は大騒ぎ』
2004年11月16日(火)

『グアヴァ園は大騒ぎ』 キラン・デサイ /村松潔 訳 

インドで生まれ、10代後半からは英米で教育を受けた新人作家の作品。執筆当時はコロンビア大学の学生だったとか。

スラップ・スティック・ムービーはあるけれど、この小説はスラップ・スティック小説である。郵便局勤めの冴えないサンパトが局長の娘の結婚式のときに、ついに切れて、パーティー会場でお尻を見せるような醜態に及び、当然、首になる。サンパトは家出をして廃棄されたグアヴァ園の木の上で暮らすようになるが、ほどなく家族に見つかる。

家族が息子を普通の生活に戻そうとするのもつかの間、抜け目ない父親は彼を「聖者」に仕立て上げる。彼の発するどうってことのない言葉が、急にご託宣となり、信者が果樹園へと押しかける。それを目当てに父親はみやげ物などを売る。その間、サンパトの木上生活にさまざまな工夫がこらされ、地上に降りずとも、快適な毎日が約束され、木の下で母親は料理に励む。父親は、株投資のために、せっせと貯金をする・・・これだけでもかなり、どたばた劇なのだが、それに加え、街の映画館に出没していたいたずらな猿とその仲間やら、アイスクリーム売りに恋する妹やら、そもそも多少狂気がかった母親やら、母親の料理に麻薬が入っているのではないかと疑うスパイやら、いろんな人が出て来て、題名どおり大騒動

どうも息子の「聖者性」はグアヴァの実とも大いに関係がありそうだ。

どたばた劇の中に、時々寓話的な部分があり、悪ふざけにあふれたスピーディな展開である。それ以上でも以下でもない。サンパトの言葉は含蓄に富むようでもあるが、くだらない与太のようでもある。同様にこの作品も人間の存在を風刺するようでもあが、単に笑い飛ばしているだけのようでもある。才気あふれる若い子が書いたというのが、もっとも至極である。

★★ (新潮社)




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