![]() |
![]() |
『山口晃作品集』 「洛中洛外図の屏風絵みたいな画集なんだけど、買わない?」と息子が言ってきて、親に金を出させた画集。なかなかお手柄の発見でした。 開いてみれば、洛中洛外図風の俯瞰図だけでなく、伝頼朝像の似せ絵風のものや、厩図やその他、ああ、これ見たことあるわ、というような古典作品を模しつつも、実際に描かれているものは、紛れもなく現代、という絵の数々。ご本人が「山愚痴屋」と署名するのも、むべなるかな、と思えるような職人風のタッチ。これが出来るのは、山口氏に職人並のすぐれた技術があるからだ。 職人の技量が惜しみなく発揮されるのは、ディテールの書き込みである。馬上の武士と思いきや、馬の代りにバイクだったり、旗印がスマイルマークだったりするのはほんの序の口で、なにげない住宅風に描かれた建物の屋上にさりげなく高射砲、祇園祭の山車かと思えば、長い砲塔が飛び出していたり、侍と現代人とが語り合っていたり、と、とにかく枚挙に暇がないほどのディテールの面白さ。「九相図」風のものも、倒れているのが死体ではなく、機械であるのに、周りにいるのは時代劇風の人たち。合戦図の盾の裏に水洗トイレがついていたり、東京図のビルに破風がついていたりもする。本来ありえない組み合わせのものが、何の違和感もなく一つの画面に収まっている。しかもそれが、げげっと感じるほどの強烈な現状批判だったりする。 2800円という廉価のため、紙型が小さく(B5)、ディテールを見るにはルーペ(おまけ)が必需品。私の年だと、めがねをはずして、目をこらして、である。この5倍までの価格なら買うから、もっと大きい紙に上等の印刷をしてほしい。 是非とも実物が見たいものだが、残念なことに公共美術館に所蔵されている作品がない。せいぜい、六本木ヒルズの森アーツセンターミュージアムだろうか。しかし、発注して描かせたのであろう東京図があるだけのようだ。あとは三越だけど、確かに三越はこの人の絵を以前CMに使っていたけど、オリジナルは日本橋店に展示されているのかしら? 1969年生まれという、まだ若い画家だから、これからどんな作品を送り出してくれるのか、楽しみ。前衛美術といった難しさの代りに、面白さが満載。息子が買ってきた本は、著者のサイン入り限定本だった。でかした、でかした。ミーハーな私にはささやかな喜び。 東京大学出版会
★★★
|
![]() |
![]() |