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『沈黙博物館』ほか
小川洋子である。死生、永遠もの。 この人は研究者が論文を書くように小説を書く。テーマに向かっていろんな切り口で切っていく。研究者向きかもしれない・・・小説家のほうがお金になるから小説家になったのは正しい選択だったと思うが。
続けて読むと、「あ、まただ」という印象を受けないでもないけれど、それがテーマだと思えば切り口が楽しみである。
人の形見を集めて博物館に展示する準備をする技師が主人公。日本とも西洋とも思えない、現実感のない世界が舞台。とはいえ、小川洋子の現実感のなさは独特。受け入れやすいのだが、読後、振り返ってみると霧の中に隠れているような世界である。
ミステリータッチも加わり、長さの割りには飽きないで読める。世界を構成する種々の要素も破綻なく、うまく収まっていると思う。沈黙の伝道師見習い少年と少女の恋のエピソードがはかなく瑞々しい。そしてこの博物館の創設者である老婆、枯れ果てて縮まって変形した老婆の描写の見事なこと!うまいなあ、といわないではいられない。
これほどにまで言葉を操る力を持つ作者が「言葉」に疑念を投げかけた小説を書くというのは大層逆説的なことだ。こういう作品を新刊で読まないことが若干悔やまれる。が、新刊はかさばるし、市立図書館に通う時間がなくて残念。
ついでに同じ小川洋子『貴婦人Aの蘇生』、これも死生もの。ただし、出来は上々とは言いかねる。脇役(オハラとニコ)が魅力的すぎるのと、「伯母さん」はロマノフ皇女アナスタシアか、という興味でテーマがぼけている。面白いけれど、つまらない。帯に書かれた宣伝文句がいかにも大げさで陳腐に思えた。
それにしてもこの2冊、絶対『博士の愛した数式』に乗じて売らんとする糸での文庫化(再刷)と見た。なんか、切ない出版界。
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