書泉シランデの日記

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『透明人間の告白』
2006年01月11日(水)

出かけるとき、かばんにゆとりがあったから『日本美術史』にしようかな、と思ったけれど、重さに負けて、文庫本にした。上巻の読み残しを読んでいるうちに、電車を1本遅らせてしまった。上下2冊本の上巻がちょっとだけ残っているのって、通勤の友にするには短すぎて、結局下巻も持つ破目になるから嫌なのだ。

さて、『透明人間の告白』新潮文庫上下2冊なのだが、帯に「《本の雑誌》が選ぶ30年間のベスト30第1位」と書いてあったから、何となく買ったのだ。いくらなんでも30年間のベスト1ならさぞかし面白かろう、と。

騙された。

上巻の三分の二はかなり冗長でつまらなかった。透明になってからの感覚はそこそこ結構だが、私のようなワガママ者には飽きる。しかも若干グロ。もちろん、よく書けているし、想像をつきつめればそうなんだろうな、と共感は出来るけれど、だんだん面倒になる。グロも適当に追求して終わりだしね。

エピソードが散漫である。透明な体で友人の会話を聞くくだりもonce is enough の趣向だと思うし、投資でお金を稼ぐのも20世紀的で面白いけれど、まあ、それだけだし、いくらか面白くなるのは、情報機関と対立姿勢をとり始めてからだ。でも何にせよ結局やれることは、透明な体を使って情報を盗み見るくらいのことなので、わくわく感に乏しい。「またかよ」なのだ。終わりの四分の一くらいでアリスが登場して、ワンパターンとモノローグが多少とも解消される。

特に必要とも思われないセックス描写はエンタテイメント小説の定番なのかしらん。

透明な体でも生活感を克明に描いたという点では評価されるべきかと思うが、30年間のベスト1といわれると、一体どういう選び方をされたのか不審というほかない。登場人物が無駄に消費されている気もするんだけれどなあ。ダメな話ではないけれど、だからどうなのよ、な話だ。透明人間はウェルズの古典的なのを子ども時代に楽しんだから、あれで十分。

家人いわく、「透明人間は網膜の反射がないから目が見えないらしいよ。」
「ふ〜ん、そうなの。もういいの。もう読み終えたから。」



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