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『日本美術の歴史』 辻惟雄
2006年01月19日(木)

縄文時代から宮崎アニメまでを俯瞰した、一人の著者による日本美術通史である。この著者の『奇想の系譜』がとても面白かったし、館長を務めていた千葉市美術館の展示も何度か行って、面白かったので、横尾忠則のデザインした派手な表紙を見て、すぐに買った。阿修羅像に岡本太郎の「痛ましき腕」が重なり、遠くに神奈川沖の冨士が見えたり、風神雷神がいたりするような表紙である。(楽しそうでしょ!)

A5版だから、図版が小さいのは致し方ないことで不問に付さねばならないが、分量的には決して少なくはない。しかも、図版グラビアが別途あるのではなく、記述と同じ頁にあることが殆どである。これは大変便利。ただし、もっとあったらいいか?と聞かれたら、そりゃあもちろん、と答える。

図版だけでなく、参考文献もその都度紹介され、この点も便利。おまけに佐藤康宏氏による文献案内まである。充実度抜群。教科書みたい、と思って読み終えたら、案の定、あとがきでそういう意図があったことを知った。なあんだ、である。読みながら、なんやら記述が平板やなあ、ということは確かに感じていたのである。通史だからこういうことになっちゃうんかなあ、と。それってやっぱり<教科書>を意識したからなんでしょうね。紹介はするけれど、論じない、みたいな感じ。無論、紹介をする時点で、その取捨選択にこそ主張があると読むべきですが、こちらはそこに主張が読み取れるほど美術に明るくないのです。

期待していたのは、中世〜江戸の絵画のところだったのに、実際面白かったのは、そんなところより、最初の縄文美術だった。縄文土器のおどろおどろしさを美術史家に解説してもらうと、へぇ〜そうなんだ、と興味がわいた。著者の専門領域の記述には、むしろ欲求不満が募ったくらい。

とはいえ、ああ、そういえば、こういう仏像もあったねえ、と思い出し、そんな建物もあるんだ、と驚き、その言及は絵のみならず工芸品から書道に写真、マンガにアニメ、にもおよび、まるで、昨今のコンビニのような本である。このくらいハンディにして図版豊富な日本美術通史の本は一家に一冊必需品ではないかしら、と¥2800なんて安い、安いと思うのでした。



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