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『中・高校生のための現代美術入門』 本江邦夫
2006年01月25日(水)

抽象画の必然をこれほどわかりやすく説明したものに出会ったは初めてであった。図録の解説などでは、本江さんというのは割合難解な表現を使う人だという印象があったが、これはよかった。「中・高校生のための」という但し書きは、学術的な用語で語らないことに対する著者の照れではないかと推測する。

専門用語は正確に緻密に語りたいというときに、その用語を理解するもの同士ならば大変便利なものである。でも、当たり前のことだが、誰にでもわかるわけではない。専門用語を使いこなせる人にこそ、なんとか専門家として許容範囲の正確さで、素人に語りかけてもらいたいものだ。

いうまでもなく作品から感じることが最優先だけれど、どうもそれだけでは心もとない。抽象絵画の発生の必然とか、モンドリアンならモンドリアンの様式性など、専門家に教えてもらうことで、ほぉ、なるほど、と胸のつかえが下りる。この本の中で紹介されている作品の多くは千葉の川村美術館にある。川村で出しているのかしら、と思わず奥付を見ると平凡社ライブラリー。

平凡社ライブラリーには上等のものが多く入っている。中高生相手のものがこのほかにもあるかどうかは疑問だが、中高生を表に出すならちくまプリマーブックスが私のごひいきである。ただし、あれが本当に中高生相手かどうかは怪しい。「です・ます」体で書いているだけで、内容は大人向きではないか。大体、ほとんどの人は大学や職場で専門にしている分野を除けば、高校を終えた程度の教養であることが普通だろう。私なんぞ、理系科目はそれすらおぼつかない。だから、中・高校生向きと銘打つのは、実は素人の大人向きと解することが可能である。

それにしても、いまどきの本物の中高生がこういう本を読むのかな?読んでくれればうれしいことです。うちでは中年と大学生が読んでいます。もう一回川村美術館へ行きたいね、の気分。



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