書泉シランデの日記

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ムターのモーツァルト
2006年01月30日(月)

40歳を目前に、ムターはもはや押しも押されもせぬ大家の域に入れてもいいんだろうと思う。けれん味のない、正統派である。女流とはいえ、あの音色!ここ数年のMIDORIもいいけれど、音そのものの質感が全然違う。

が、私はムターにこれまであまり面白さを感じなかった。あまりに優等生的。素人が演奏の参考に聴いても悪影響を受けない感じ。

ところが昨年出したモーツァルトのヴァイオリンコンチェルトの新録音は、ちょっと聞きではムターじゃないみたいな印象を受ける。全体にハイテンションだし、アゴーギクの効かせかたなんて、「おー、ためとるなー」って誰がひいているかと思うほどだ。(ボルネオあたりに親戚のいそうなあの人とか。)そういう耳にひっかかるところもままあるが、音色の美しさったらないし、5番の冒頭でソロが入ってくるところなんて、胸をしめつけられるような切なさを覚える。

一体、昔はどうやってひいていたっけ・・・と気になって、13歳だか14歳だか、お若いときのカラヤン×ベル・フィル盤を掘り出して聴いてみた。

これはこれで天才少女の名演なんですよ。第2楽章のアダージョなんてとてもお子様の芸とは思えない。で、冒頭、これがまさに若いか、おばさんかを見事に反映していました。言葉に置き換えたって仕方がないんだけれど、イメージ的には、とにかく最初の録音だと、世界が開けていく−不安と好奇心にかられながら、一歩ずつ踏み出すような感じ。ああ、思春期そのまんま!それはそれでとっても瑞々しく、懐かしさすら覚えます。

さて、おばさんになった今のは、というと、まあ、こんな与太を読むより、聴いてみておくんさい、なのですが、長調なのにどこか短調、どこか翳りがあるんですねえ・・・振り返れば、人生、いくつかの哀しみ、数多くの取り戻せないものたち。ムターさんでもそうでしたか、なんて言いたくなっちゃいます。(ちょっと前にプレヴィンと再婚して順風満帆だと思うのに・・・)

最近、日本のヴァイオリニストというと、十代でデビューしていないと×に近いような早熟な様相を呈していますが、20年なり30年なり経ったときに、どう進歩のあとを見せてくれるのでしょうね。天才少女たちがおばさんになったとき、相応の達成に恵まれますように!



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