電車に乗って知らない場所(今日は北千住)に行くとき、活字がないと落ち着かない。これは駅で買った。選択理由は薄さと「野間文芸新人賞受賞作品」の帯である。最近の新人賞は単に販売促進だったりして信じられないから、カバーの見返しを見たら、他にもいろいろもらったり、もらいそこねたりしているので、これならいいかも、と決めたのである。 好きなタイプのストーリーかといわれると、時代小説よりはついていける、という程度だが、気持ちよく読めた。自意識過剰のうるささがなく、日常の描写を重ねながら、主人公が確かなものを掴み取り、周囲の人たちに相応のさりげない愛を覚えながら居場所を見つけていくさま、というか、成長というか、そんなような姿が浮き彫りにされる。ごたごた説明を繰り返さず(最初のほうには説明的なうるささがないわけではない)、さらりと仕上がっていて悪くない。 私は一字一句無駄になっていない精巧な短編小説を読み解くのが好きなので、こういうのは物足りない、と言いたい気持ちもあるのだけれど、なぜかそうも言えないから、やっぱりよく出来た短編なんだろう。上手なんだね。
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