ことばとこたまてばこ
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1970年01月17日(土) 馬鹿の見た空

水の底から見上げる空はまた違った様相。
水に屈折され、ぺきぱきぽちと折れ曲がって広がる光。
水の色が青空のさらなる色フィルターとなりそれは深淵。
水がおれの渾身、あらゆる部分すべてをくまなく圧迫する。
水にくるまれ鼻の奥まで水がそそぎこみ、ツゥーンツンツン鼻に痛みが。


ツンの直後、イマージュにちょんちょん、素早く死がよぎった。


遠ざかる空はきらきらぴかぴか艶やかに。
すぃーっちょん、と魚が逆光を帯びてやってきて去る。
むあむあと髪の毛がワカメのように漂うのがちらちら目の端に。
でっっでででんでんあれおいこらちょいとあんたこらやばいんでないかででん!


頑固にて強固な母親におねだりするときの最終兵器だだこね、
あの要領で手足をばたつかせながら、黄色い鼻水や痰を張りつかせて海上におれ顔を出す。


スイカのビーチボールを手にした女の幼子がおれのすぐそばに立っていて、くりくりくり大きすぎる目を動かし奇妙な生き物、つまり我を眺めてくる。

おれ、水深30センチもないところで「おぼれかけたのだよ。でもだいじょうぶ。助かったのだからそんなに心配しなくともよいでよ。おお、よい子だ。そんなに心配をしてくれたか。そうかそうか。かき氷でも食うか?」とも言えるわけもなく。
あぜん。女幼子の背景には夏の空とそんな擬音がゴシック太字でことさら強調されながらひとつぽつんとあったよ。


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