ことばとこたまてばこ
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負の情感すらをも食らい尽くす猛獣が、森の中でおれを見据えた。 生唾を飲むどころが毛先一本の僅かな動きも辞さぬ暴力的なその眼力。
猛獣の口端には腐れ果てた情がぶら下がっている。 目は禍々しいオレンジに輝き、3本の尻尾がミミズのように細かくゆっくりと動いている。 その全身は真実の紅に染まって。
次の瞬間、猛獣が動いた。つるつると滑らかな動きで厳の頂上に降り立ち、大きく強く輝く月光を背に携える。月があまりにも眩しく猛獣は黒い輪郭となって。
足は震え、目はかすみ、血の気は吹き飛び、意識はもーろー。 そんな時、一匹の子鹿が現れた。 猛獣ギロリ睨みつけるが子鹿は草をはむのに夢中。 猛獣ギロギロリ再度激しく睨みつけるが子鹿は草をはむのに夢中。 猛獣ギンギロリ常人ならば発狂起こしそうな眼で睨みつけるが子鹿は草をはむのに夢中。
よろよろと草をはみながら子鹿はおれのところにやってきて。 ほれほれ、あぁたジャマよ、おどきなっせ、それ、おどきなっせ、あ、それ、おどきなっせ、 とでも言わんばかりにグイグイおれを押しやって、押しやってはたと気づくと森の外。
猛獣、森の奥深き場所にてオレンジの眼を燃えたたせて唸る。 子鹿、森の外にてへらへら悠々草はんで、はんで、その繰り返し。 おれ、森の奥でも外でもない場所にひとり取り残された感。
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