ことばとこたまてばこ
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2005年01月27日(木) ルイとの逢瀬

暴力的な海風が吹きわたる浜辺で僕はルイと最後の逢瀬を慈しんで。
風にあおられた砂がルイの黒く綺麗な髪の毛の間に細かく潜り込む。
波は白い飛沫をたてて僕らの足をたっぷりと濡らす。
陰鬱な雲が立ちこめていて、風も水も存外冷たく僕らはすっかり冷え切っているのだけれど。
ずぶぶるぶると過剰に水分を含んだ砂に、僕らが頭の先まで飲まれて沈みゆく感触を覚えた。


ルイ。
声で名を呼ぶ。
声は風に吹き飛ばされた。

ルイ。
手で名を奏でる。
手はそこにある。


非情な時が迫った。時の経過と共に僕らの情は際限なく高まる。
でも僕らは相手を抱くことができない。
抱いてしまうと僕らの言葉が無くなってしまう。
僕らはまるで不能者のようにただ相手の前に立ちつくすだけ。

空で雪白のカモメが飛んでいる。
僕は視界の片隅でそれを認め、いつまでも飛んでいておくれよと願う。
このやるせねぇ暗い空を少しでも彩ってくれよ、と願う。
せめてこの瞬間の僕らのために、と願う。


ルイが僕に何かを囁こうとした。
声は風に吹き飛ばされた。

ルイが僕に手で何かを語ろうとした。
手はそこにある。



時はもはや衝突寸前。
僕はルイの背中に手を回し、全身全霊でしかと彼女の身体をかき抱く。
ルイは僕の力に任せるまま抱かれ、そしてまた彼女も渾身の力で僕を。

ルイの手はふさがれ、ルイの顔は僕の顔の真横。
しかしそれまで恐れていた沈黙の空虚は、なかった。
それどころが言葉にも声にも手話にも表情にもどのいずれにも勝る充足感が末端神経の隅々にまで染みわたる。瞬時、ようやく僕は知った。


いつしか言葉すらも超越する関係を僕らは築けていたのだね。


やがて僕らの言葉つまり互いの手を取り合い、砂丘の頂へと駆け登る。
その時カモメの糞が幸せなことに僕の頭に落っこちた。はは、運付き。ルイ逃げた。ひとりで茫然自失。くわあ。


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