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2006年12月09日(土) ひょうきんなけだもの 2 『牡丹と物質と少女』




あれは明るい夕暮れだった、
あの日の空気は渇いていた、
時計の針は六時をしめし、
重い寺の鐘
ごたたたん ごたたたん ごたたたたたん
はるか果てへと響かせ、
かまいたちの襲来を告げた。

ぐむりぐむりと訪れたもののけが少女の足をすくった夜、
あれから目覚めることを知らぬ少女。


雪の重みにすべての枝がしなる冬の夜、
少女の母親は
酸味にあふるる蜜柑の皮を、
ぶつりと破く。


家庭から湯煙りが立ちのぼる冬の夜、
少女の父親は
冷たく凍えた鼠を、
熱き手で包む。


はっきりと紅い一輪の牡丹を胸に、
ほほえみながら永く眠っている少女。


いつの日か牡丹が溶けて煉獄の業火と化す日、
少女は、
己の内の少女へ向けて子守唄、
歌うことだろう。


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