ことばとこたまてばこ
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ある音無し子はラジカセを手に持ちながら ヴォリュームを最大にしてびゃんびゃん暴れる音が てのひらで跳ね回るのを感じて楽しんでやがて悲しんで 何の歌なのかなー どこの歌詞なのかなー 何の音なのかなー クラスメイトが涙を流すほどに感じ入る音楽の魅力は やっぱりだけどあんまり分からなかったよ 音を大きくして響かせれば良いってもんじゃなかったよ
ある音無し子は道を歩いてた 別にふらふらしてたわけでもなく いたって普通に道を歩いてた 後ろから車がやってきた ちょっぴり強引に左へ曲がろうと走ってた クラクション聴こえるはずだよと パンパンパパーン何度も鳴らして 音無し子を巻き込み曲がった 聴こえるはずだよと思ってたよ 運転手なんどもそう言ってたよ
ある音無し子は素敵にステキな愛しい子の口を 見つめて声をつかもうとして懸命に見つめた それってば水をつかもうとしているよな努力だった 水をつかんでも手に残るはさらさらの水滴 言葉をつかもうとした音無し子に伝わるはきれぎれの単語 単語をつぎはぎだらけのフランケンシュタイン文章に直して 懸命に頭を働かせて千載一遇の愛しい子との会話を少しでも続けたい! そう願って頑張ってたけれどもだめだったよ ばかばかしくってくだらない低能のような会話しかできなかったよ おれはもっといろいろ考えているのにな、と おれってばもっと愉快なこと知ってるのにな、と おれが思っていることの鼻くそほども伝えられなかったな、と 狂おしく悔しくて寂しく情感じめじめの音無し子は そんなこと思いながらステキなあの子の去ってく後ろ姿を眺めてたよ
静かに音が流れ出したあとに残るは純粋な歓び 音が舞ってる 音が踊ってる 音が滲んでる 音が弾けてる 音無し子は音の狂乱の中を平然と歩いてるのよ
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