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2005年06月09日(木) |
トンネルを抜けると。 |
長いトンネルを抜けるとそこは雪国だったらびっくりするだろう。 トンネル前に雪がなかったら絶対に驚くね。 真っ暗な場所を抜けたら、そこに思いも寄らぬ風景が広がっている。 どうした訳か、そうした光景は忘れられなくなったりする。
子供の頃、近所にソッコージョと言う場所があって、今考えれば測候所で あるのだろうが、その周辺は空き地になっており、子供達の遊び場になって いた。良質のバッタが採れるのである。 更なる大物を狙うためには 遠征が必要であった。 大物が住んでいる場所までには海員学校(当時は近くにそんな学校があった) の寮の裏口を通るのだが、時々兄ちゃん達が汚いナリをした子供達にパンを 投げてくれるのである。 アンパンである事もありジャムパンである事もあったが、それを口にしながら 更なる道を行くのである。 だが、いつも遠征をしていると ばれた時、大変まずい事になるので 大体は 測候所のバッタで我慢していた。 測候所の空き地へ行くには『正規の道』と言うのがちゃんとあるのだが 子供達は細く暗い道を通って行く。 空き地前の、民家の玄関口を勝手に通っていたのである。 やだ、今自分ちがされたら絶対やだ。「通るなようっ」って言うだろうな。
細い道を抜けると、一面が真っ黄色に染まっている。タンポポの季節である。 暗く細い道から、広く一面の黄色。 タンポポの季節はバッタ最盛期ではなかった筈だが、人の獲ったバッタを 『うんこバッタ』とか言っては喧嘩になっていた頃が、鮮やかな 黄色と共に蘇って来る。
岩をくり抜いたらしい 短いトンネルを抜けると崖下に広がる海。 そこは人気スポットで、人一人やっと通れる道を通って、海を見ては 「わあ」とか言って戻って来るわけである。 海であり砂であり海草であり、渾然一体 何とも言えない色をしていた。 そして空。一度だけだが、忘れられない。 きっともう、行く事はないだろうと思う。何せ遠いんである。 道中は滅茶苦茶危険。 「私を海に連れてって」と言う願いは、ちょっと叶えて貰うあても ないし、この先もきっとないだろう。愚痴っても仕方ないが。 ちょっとマニアックなその場所は、今もきっと 変わらずあるんだろうけれど。
真っ暗な場所から思いもよらぬ 明るく広い世界へ。 それがこんなに心を打ち、いつまでも忘れられないのは とうに忘れてしまった と思い込んでいる古い古い記憶が、どこかで作用しているのかも知れない。
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