目次 / 戻る / 進む
息子がトンボを採ってくれとうるさく言うので、採り方を教えてやった。
羽根が上がっている時は駄目。羽根が下がっている時に素早く胴を掴む。 1分したら家に戻って来た。「採った〜〜」
いきなり捕まったらしい。どんなダメトンボか見に行くと 「食べている所だったんだ」 と息子。 「今も食べている」 見るとなるほど、トンボは何かをしきりと食んでいた。 バリボリバリボリバリボリバリボリ・・・すごい音がするんである。 下あごが大きく、開いたり閉じたりしている。
「アリを食べているんだよ」 息子が言い終わるか終わらないかの時に トンボの口から何かがポロンと。 アリの破片。 「ぐえ」 さすがに唸ってしまった。トンボの口に指を突っ込んだ事は 何度もあるけど、食事風景を見たのは実は初めてだった。 彼は無造作に羽根を掴まえられ、それでも食べる事を止めない。 バリボリバリボリバリボリバリボリ・・・
「ちゃんと逃がしてあげなよ」 「え〜、せっかく捕まえたのに」 そりゃあ、そうだけど。
そのトンボはもう死ぬ。今はボリボリと豪快に音を立てて食べていて 羽根もまだしゃんとしてるけど、 明日は少しボロボロになり 明後日は もっとボロボロになり、次の日当たりが冷え込んだなら、元の形が 判らないほどくしゃくしゃになって落葉と混じっている事だろう。 アキアカネならまだしも、彼はシオカラトンボ。
とんぼが、はかなく飛んで来て身のまはりを飛びまはる とべる間はとべ、やがて、とべなくなるだらう(種田山頭火)
この季節になるといつも思い出す。私のとても好きな一句だ。
トンボは はかなく飛び、そのまま弱って落ちると言うイメージがあった。 死も近かろうに、こんなに豪快に 音立てて物を食べているとは。 余計に哀れになった。
お食事トンボはお食事が終わるまで離して貰えなかったが、彼も彼なりに 捕らえられた状態で完食し、空へ帰って行った。
先日のメールは着信拒否にあっていたわけではなかったらしい。 それに関する、とても丁寧な詫び状(メール)を頂いた。
|