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ここではないどこかへ。
後姿が見えなくなる前にこちらが走り去ってしまう方が ずっと、あとあと楽なのだ。
自分の負担を考えるに、その方が良いのだ。 例えば道が間違っていても、取り敢えず 早足に去った方がいい。
そう思いながら 月の光を静かに浴びている。
地面に転がった人形だ。 手も足も、首もなかった。 元々どこにも行けないのだった。
五体満足の人形が打ち捨てられているのを見て それを壊し 汚すのは、全うな心理とは思えない。 だが、既に人形の姿も保っていないものが無造作に転がっていたら・・・ 可哀相と手に取るよりも、目を背けるかいっそ踏み付けるか 見たくない、なかった事にしたかったと言う心理の方が普通に思える。
歩み去れない足、踏まれ、人形であった事実も消し去られるのを待つ身体。
一瞥をくれて、踏み付ける事はせず 目を伏せ歩み去る優しい影。
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