++いつか海へ還るまで++

雨が降る 代わりに泣いて いるように

降り続く雨 降り止まぬ雨


2005年06月23日(木) 月明かりの下で。

#現在 6/21(火)#



月明かりの下を

一匹の
薄汚れた野良犬が
腹を空かせて足を引きずり引きずり
歩いていた。

何かあてがあるというわけではない。
蹲っていた方が楽なことはわかっていたけど
ただ 何となく止まれないような衝動に駆られて
とにかく歩き続けていた。

首には千切れかかった色褪せた首輪の残骸。
いつだったか 飼われてたことがあった印。



 引きずっている脚は昔つけられた傷の名残
 雨の前の日には余計にシクシクと痛みやがる。
 
 今夜はまた同じ場所をやられちまった。
 いや 避けようと思えば避けられたんだが
 そいつの目がさ・・やけに哀しそうでさ。
 そしたら身動きできなくなっちまった。
 ああ いいかなって。
 それで コイツが楽になるんなら いいかな なんて
 柄にもないやね。
 
 ガブリとひと噛みした後で 
 ハッとしたように飛びのいたソイツさ
 何度も謝るんだわ。まったくさ 馬鹿なヤツよ。
 
 謝るくらいなら噛むなよ。
 言いたかったのに口から出たのは
 「別に痛くもないから 平気だ。大丈夫。」
 静かな優しげな声で言ってる自分が其処に居て
 なんか不思議だった。

 だってなぁ・・ソイツ震えてたんだぜ。
 泣いてたんだぜ。
 まだ毛並みもキレイで。
 傷だって無くって
 痛みってものの意味さえわかってないみたいで。
 そんなヤツが噛むなんて さぞ辛かったんだろうさ。

 俺は さ。
 痛いのにゃ 慣れっこだからな。
 痛くないわけじゃないさ。
 けど 脚を引きずりながらでも立てるし
 こうして歩ける。

 今夜は ヤツがたまたま古傷のおんなじ所 
 噛んじまったもんで・・・さ。
 ちと辛くなったが なに・・それも
 自分で舐めてりゃ そのうち血も固まる。かさぶたになる。
 頑丈だけが取り柄よ。

 ああ でもチクショー 結構効いたな コレ。

 

 
ふと立ち止まって月を見上げて


犬は吼えた。
一声だけ
細く長く。
啼くように ただ 一声だけ 
吼えた。  



そうして

月明かりの下

一匹の
薄汚れた野良犬は
また 足を引きずり引きずり
歩きだした。



月は いつも通り ただ それを照らしていた。

柔らかな明かりを浴びながら
野良犬の後姿は遠ざかっていった。



月は いつも通り ただ それを照らし続けていた。



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                               ゆうなぎ


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