読書記録

2005年07月16日(土) きよしこ           重松 清


 ━星の光る夜、きよしこは我が家にやってくる。すくい飲みをする子は、「みはは」という笑い声で胸をいっぱいにして、もう眠ってしまった。糸が安いから━
おかしな言葉をおかしなぐあいにつないだ、おかしな文章だ。
ノストラダムスの予言詩?
残念ながら不正解。
これは、昔むかし、ある町に住んでいた少年が勘違いして覚えた『きよしこの夜』の歌詞だ。
「きよし、この夜」を「きよしこ、の夜」と間違えていた。「救いの御子」が「すくい飲み子」になり、「御母の胸に」は「『みはは』の胸に」なった。「眠り給う」は「眠りた、もう」、「いと易く」は「糸、安く」・・・・・。
ひどい勘違いだった。少しさびしい勘違いでもある。歌詞には書いていない「我が家にやってくる」という箇所を、想像で勝手にくっつけたところが、さびしい。


『カ行』と『タ行』と濁音がつかえてしまう吃音の少年の物語
父親の転勤で小学校を5回も転校して、その度に自己紹介をさせられ自分の名前の『きよし』でどもってしまい、笑われからかわれる。
それでも中学、高校と進むうちにだんだんと吃音は少年の個性として友達にも受け入れられていく。苦手な言葉を言わなければならない時は、代わりの言葉を捜すがたいていは自分の心の中にしまってしまう。
大学受験までの少年の心うちが見事に書かれている。
それにしても作家というのは、状況や場面の描写と登場人物の心理描写を何と見事に表現してくれることか。
そして人生というか生きていくということは、人の気持ちを知り何より自分の気持ちと真摯に向き合うことだと・・改めて感じた。


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