読書記録

2006年07月05日(水) 死国           坂東 真砂子


 これはホラーかそれとも大人のおとぎ話か


二十年ぶりに、故郷である高知の矢狗村を訪れた比奈子は、幼馴染みの莎代里が十八年前に事故死していたことを知った。その上、莎代里を黄泉の国から呼び戻すべく、母親の照子が禁断の"逆打ち"を行なっていたのを知り、愕然とする。四国八十八ヶ所の霊場を死者の歳の数だけ逆に巡ると、死者が甦えるというのだ―。そんな中、初恋の人・文也と再会し、恋におちる比奈子。だが周囲で不可思議な現象が続発して…。

四国は死国。神の谷の石柱が泥の中に沈み、死国はこの世の外に消えた。しかし、この島には、今も死者の心が渦巻いている。死者は、私たちのそばにいて、私たちを見ている。私たちが、彼らを呼び出す日を待ちながら。

照子が逆打ちしたことと、文也が神の谷で石柱を起こしてから莎代里は甦ったようだ。子供の頃から好きだった文也を比奈子から取り戻すために。

文也は苦々しげにいった。
「自分が、人生にも、他の人たちにもものわかりのいい人間だと信じてきた。ものわかりがよすぎたから、早くから人生に疲れたのだと思ってきた。だけど、今では何だかわからない。・・・ひょっとしたら僕は安全な自分の甲羅の中にいて、外の世界に自己流の解釈をつけていただけかもしれない。甲羅の外の世界に出ていくことをせずに、それを直視するのを避けてきた。純子・・・別れた妻が抱いていた不満も・・・莎代里の視線も・・・」

それにしても死者が甦って残された者に言葉を発したらこわいなぁ。
だけどたいていの人間がこの世に未練を残しているだろうし、いろんなことを置き去りにして旅立っているだろうから・・・。




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