読書記録

2006年07月11日(火) 白道            瀬戸内 寂聴



 西行は平安末期から武家時代を73歳まで生きた
鳥羽上皇の北面の武士の立場も妻子も捨てて、23歳で決然と出家した
作者も51歳の決断で出家得度している
出家した年齢に差はあるものの、同じように出家した心の内を作者がどのように書いてくれるか興味があった
だからふつうの小説風ではなくて、西行が出家してから移り住んだ場所を西行が移り住んだのと同じ季節に作者自らが訪ねて、その時の西行の思いに馳せる
この西行探索は、得度しても自分を問い続ける作者自身への探索でもあるようだ
法名円位と名乗った西行は洛外、高野山、伊勢、讃岐、陸奥、吉野を転々としながら歌を真言として生きた姿は、作者が出家してなお作家として文章を生み出している姿と重なる
それでもこの『白道』を書いたときに感じた思いは、文中の70年生きてわが心ひとつがついに捕えきれないということを、わが心がようやく悟ったという作者の胸の内を吐露する

 
 惜しむとて惜しまれぬべきこの世かは 身を捨ててこそ身をも助けめ
どうせ惜しんだみたところで惜しんではくれないこの世、いつかは死に至るこの世ではないか、それならいっそ我から身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあるのではないだろうか。自分はその道を進んで選ぶのだと、胸を張っているのだ


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