| 2006年10月02日(月) |
文車日記 ━私の古典散歩━ 田辺 聖子 |
古事記や万葉集、江戸時代までののいろんな文学作品の中に散らばるエピソードを分りやすい文章で書いている 日本語のもつ美しさや言葉の響きも教えてくれる 額田王あり、大伯皇女あり、但馬皇女あり、そして私の知らなかった人物ありで面白く興味深く読んだ 平家の最後もあるし、神話もあった 作者の膨大な読書歴から 自身の好きだと思う話ばかりが紹介されているのだけれど、幅広い作品の取り上げには感服させられた
あるとき、若い美しいお嬢さんが、かなもじを紅色に散らし書きして染めた着物を、身にまとっていられるのをみました。それは、「あけぼの」「くれなゐ」という文字でした。━まさに、あけぼのもくれないも、若い娘の美しさ、清らかさをあらわす、こよない言葉に思われました。 それで私もまた、そんな美しい言葉をちらし書きして染めた着物を着てみたいと空想しました。 おぼろよ、かげろふ、あぢさゐ、あさゆき、はるさめ、なのはな、うぐいす・・・口ずさむだけで、美しさに酩酊するような言葉がたくさんあります。もし私が時代小説を書くときは、ヒロインたちに字も発音もイメージも美しい、こんな名を与えたいなと思います。 もしかしたら、日本の女が美しかったのは、日本語が美しかったせいではないでしょうか。日本の若いお嬢さんに、美しい言葉をたくさん知ってほしい気がします。 「あけぼの・くれなゐ」の章より
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