| 2006年10月20日(金) |
中世炎上 瀬戸内 晴美 |
先に読んだ 杉本苑子の『新とはずがたり』と同じ題材の作品になるが、杉本苑子の書いた物語のほうは西園寺 実兼の視点から書かれているが、この『中世炎上』は二条が主人公という設定になっている そして 私にはこの中世炎上のほうが昭和13年に発見されたという『とはずがたり』に近いように思った
『とはずがたり』とは 鎌倉政権下、両統迭立時代の後深草院の女房二条で、その十四歳から四十九歳までの三十五年間に及ぶ後宮生活や諸方への旅行の追憶を記録した、水色地表紙の五巻からなる冊子本のことである 筆者は関東申次の西園寺実兼のことは「雪の曙」と表現し、後深草院の異母弟の性助法親王のことは「有明の月」と記している
この頃は 元寇が日本に攻めてきたりと大変な時代だったが、政治の実権は鎌倉幕府に移っていたので京は正に乱れた宮廷社会だったようだ 源氏物語の女版というようにも思えるだろう
昔、和泉式部や、小野小町も、歌を詠み恋にめぐまれ、人にねたまれるほどの華やいだ青春を送ったのに、晩年は、旅にさすらい、乞食のようになって、どこに果てたともわからなくなっている。 男の放浪者は、どこまで行ってもその行跡がすがすがしく記録されているのに、女の放浪者の末はどうしてああもみじめなのだろうか。どうせ、自分の旅の涯も、式部や小町にまさるとも劣らないみじめな果て方を迎えるのだろうと、二条は思いめぐらせるだけでもう涙があふれてくるのだった。
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