第一次大戦終結の年、まだ20歳の新鋭作家佐々伸子は、父親に連れられて渡米し、同じ大学に籍を置く留学生佃と知り合う。そして伸子は周囲の反対をおし切って佃との結婚生活に入るが、小市民的な安住を求める佃の消極的な生き方に絶望し、やがて破局を迎える。
一人々々離れてみれば、大して悪い者でもなく、惨酷なものでもない人間同士も、ある関係の下に置かれると、別人になる。
人間が、飼われた獣と同じように、やがてはどんな境遇にでも馴れるという事実は、悲しく恐ろしい。自分にも、今にやはり、この生活に馴れてしまうのだろうか? そして、幾年か経つうちには、趣味も、情熱も失い、最初成ろうと目ざしていた者とは似ても似つかない者になって、そうなってしまったのさえ知らず、一生を終わるのだろうか? 伸子は、目に見えないうちにすぎ去る生活を惜しみ、不安に襲われた。
この時代、金銭的には何の不安も心配もないものが人間として成長したいからと、夫のことを小市民と見ていく伸子はやはり私のような小市民には理解し難い 渡米したり大学にいったり女中がいる生活は、日銭で米を買いあかぎれた手で麦と混ぜて炊くような大方の小市民の生活は分らないのだと思う 作者自身の自伝的作品のようだけれど、この物語には続きがあって作者は日本共産党の元書記長だった宮本顕治の妻となって、プロレタリア文学に目覚めていくようだ・・・ これには私は酷く驚いた・・・ ただ宮本顕治のほうにもいろいろ目論見があったようで、また私が想像もし得なかった世界を知った思いがしている
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